君と進む季節

花火が終わって、夏休みの課題に追われる日々。
俺から課題しようって誘って、クーラーの効いたカフェに君と二人で入った。

冷たいアイスコーヒーを飲みながら課題を広げてるけど、
二人ともほとんど手が止まってて、店の涼しさだけが身体に染みてた。

君はノースリーブの服を着てて、冷房の風がちょっと寒そうだった。

「あ、もう飲み終わったわ」
ストローをくわえたまま俺が呟くと、
君は少し笑って、自分のグラスを俺に向けてきた。

「こっちの、ちょっと飲む?」
「ええの?…でも甘すぎて飲まれへんかも」

冗談ぽく言うて、君のグラスを受け取った。
いつも飲むのと違う、甘くてクリーミーなカフェラテをひと口もらった。

何でもない顔してグラスを返すと、
君も、さも当然みたいに受け取ってストローくわえた。

「ストロー噛むん、癖なん?」
「…うん」

お互い平然を装ってるのに、
冷たいカフェラテよりも頬の方が熱くなってた。

ふと君の首元を見ると、小さなリボンの紐がゆるんできてる。

「紐、結んだろか?」

そう言うと、君は素直に「うん」って俺の方を向いた。

俺は指先で小さな蝶々結びを直す。
その間、君は黙って俺の肩をじっと見てた。

うっかり俺の指が君の鎖骨に触れそうになるけど、
君は何も言わず、息を止めたのがわかった。

「…できた」
結び終えると、君は「ありがとう」って言って、
何事もなかったようにまたストローをくわえた。

氷が溶けて、カランと音を立てる。

課題は結局ほとんど進まなかった。
俺が笑いながら「また進まんかったな」と言うと、
君は椅子の背にもたれて、笑いながら「そうだね」と答えた。

店を出て改札で別れるとき、君がふと振り返って少しだけ目が合った。
戸惑いながらも俺は軽く手を振った。

「ほな、またな」
軽い声で言うと、君は小さく笑って手を振り返した。

言葉にせんでも、なんとなくわかってる。
そんな気まずさと居心地の良さの間で、
俺たちはまだ距離を保っていた。