君と進む季節

春の朝、少し冷たい風と、
どこからか漂ってくる桜の匂い。
初めてのスーツに袖を通して、
俺は門の前で少し背伸びをしてみた。

ざわざわと集まる新入生たちの中、
みんな同じ顔をしてる。
緊張と期待を隠せない、ちょっと浮かれた顔。
俺もその一人だった。

「緊張してる?」

ふいに横から声がした。
振り向くと、柔らかく笑ってる君がいて、
春の光に髪が透けて見えた。

「ちょっとな」
俺はつい笑って、そう返した。
言ったあと、少し恥ずかしくなって、
視線を外した。

「よろしくね」
そう言って差し出された手は、
ほんの一瞬で、温かかった。

別に特別なこと言われたわけじゃないのに、
なんか素敵な子やなって思った。
ただそれだけなのに、
式が終わって校舎に向かうとき、
気づいたらまた君を目で探してた。

数週間後。
満開の桜の下で、仲いい奴らで集まって花見をした。
ブルーシートの上で笑い声が飛び交う中、
笑った拍子に隣にいた子に肩が当たった。

「ごめんな」
って振り返って言いかけたとき、君が隣にいたことに気づいた。

「桜、きれいやな」
気まずさを隠すみたいに言ったら、
君はスマホを取り出して、桜を見上げる俺の横顔を撮った。

「見て、いい感じじゃない?」
そう言って画面を見せてくれる顔が、
桜よりずっと明るかった。

「俺も撮ろか?」って言ったら、
君は首を横に振って、スマホを俺の方に差し出した。
「一緒に撮ろ」って、当たり前みたいに。

笑わなきゃって思ったのに、
なんかうまく顔が作れなくて、
結局ぎこちない笑い方しかできなかった。