★四話『これから宜しくね』
花「え……っ!」
・その声に隣のベランダから出てきた人物も花を見て目を見開いている。
怜「は?!」
花「……な、なんで怜が……」
・怜が唇に人差し指を当てる。
・深夜なので、二人はベランダ越しに顔を近づけると小さな声で会話し始める。
怜「……こっちの台詞。誰か隣に引っ越してきたなとは思ってたけど、花だったのかよ」
花「お互い表札出してないし、全然気づかなかったよね」
怜「偶然重なりすぎだろ」
花「確かに……」
花(怜と再会して、怜と同じサークルで映画作ることになっただけでも奇跡みたいなのに)
花(家がお隣さんだとは……)
・怜が小さくため息をはきだす。
怜「じゃあ」
花「待って」
怜「なに」
花「私、ほんとに『REI』に入ってもいいの?」
怜「なんで俺に聞くの?」
花「ずっと怜、不機嫌だったし、強引に入れて欲しいって言ったけど本当は嫌かなって」
怜「俺とか関係ないじゃん」
花「え……?」
・怜は花の目を見る。
怜「──花の映画への情熱って本物だろ」
怜「俺は映画への情熱が面白いくらい、並外れたやつと作りたい」
怜「ただそんだけ」
花(怜……)
・怜の言葉に嬉しく思いながら、見とれる花
花(変わってない……)
花(怜はやっぱり、怜だ)
・花は胸がぎゅっとなる。
怜「それに俺が納得できる脚本、書ける自信あるんだろ?」
花「……絶対、面白いって言わせてみせる」
怜「楽しみにしてる」
・怜は唇を持ち上げる。
・花は夜空を見上げながら夜風に吹かれる。
花「やっと、怜と映画を作る夢が叶うんだね」
・そして怜に視線を移す。
花「すっごいワクワクする」
花「大冒険だね」
・花の笑顔に怜は見とれる。
怜「……脚本ネタあるんだろ、見てやろうか?」
花「いいの!?」
怜「じゃあ俺んち来て」
花「え……今から? 二人きりで?」
怜「何その顔。俺が襲うとか思ってるわけ?」
花「いや、そうじゃないけど」
花(女子校だったから男の子の家にいくの初めて……)
怜「あー。やっぱいいわ」
・怜が部屋に入ろうとする。
花(あ……)
花「待って! 行く」
怜「じゃあ十秒な」
花「みじかっ……」
・怜がいたずらっ子のような笑みを浮かべながらベランダから室内に入る。
・花も慌てて室内に入ると、脚本ネタ帳を抱えて怜の家へ。
──怜の自宅──
恋(押した方がいいよね)
──ピンポーン
・すぐに扉が開くと、怜が呆れながら出てくる。
怜「鍵あいてるし」
花「でも勝手に開けていいのかなって」
怜「真面目かよ。どーぞ」
花「お邪魔、します」
・怜は玄関からダイニング兼寝室に向かって歩いて行く。(※1DKの部屋を想定。四畳ほどの寝室と8畳ほどのダイニング兼キッチン)
花「わぁ……」
・花は大きな本棚の前に行く。映画DVDや映画関連雑誌がびっしり詰まっている。またカメラなど映画に関するものが整理整頓されておいてある。
花(映画好きにはたまらないものばっかり)
花(怜らしい部屋だな)
花(あれ、でも須藤敬監督作品が……ひとつもない?)
怜「適当にそのへん座ってて」
・怜はソファーを指さす。
花「あ、うん」
・花はソファーの下にちょこんと座る。
・そして花はハッとする。
花「あの、彼女さんは大丈夫なの?」
怜「誰って?」
花「だからその、怜の彼女さん」
花「夜中に脚本見て貰うだけとはいえ、いいのかなって」
怜「彼女いない。遊びだから」
花「え……っ、遊びって……」
怜「お互い暇なときに会ってホテル行くってだけ」
花「そう、なんだ……」
怜「なに? 悪い?」
花「べ、別に……私には関係ないことだし」
怜「それもそうだな」
・突き放すような言い方に花は胸がズキッとする。
・二人の間が一瞬だけシンとする。
怜「てかビールでいい? って未成年か」
・怜は話題を変え、冷蔵庫からビールの缶とペットボトルの水を取りだす。
怜「水しかないけど」
・怜は花にペットボトルを渡す。
花「ありがと」
怜「なんで正座?」
・怜は花の目の前にしゃがみ込む。
花「ほんとだ……緊張して、つい」
・花が足を崩すのを見ながら怜がククッと笑う。
怜「すっぴん見せといて、今更なんの緊張?」
花(すっぴん?!)
花「……っ?!」
・花は慌てて顔を隠す。
花「ご、ごめん、ちょっと見ないで」
花(いくら怜が脚本見てくれるのが嬉しかったからって)
花(私ってば……うっかりしずぎ)
花「せめてマスクしとけば良かった」
怜「いらねぇだろ」
・そう言って怜がぷっと笑う。
怜「中学ん時から全然変わってないじゃん」
花(全然変わってないってちょっとショック)
花「こ、これでもメイクとかも勉強してるんだけど」
怜「まぁ、俺は素の花のが見慣れてるからな」
花「それは中学の時は化粧してなかったからでしょ」
・怜もソファーには座らず花の隣であぐらをかく。
怜「花は花だから、俺はどっちでもいいんだけどな」
花(それどういう意味で言ってるの)
花(聞きたいけど聞けない)
花(今はこの懐かしい感じが、嬉しくて、ただただくすぐったい)
・恋の鼓動がすこし早くなる。
・怜はビール缶のプルタブを開ける。
花「怜、ビール好きなんだね」
怜「別に。多少酔えればいいってだけ」
・怜は喉を鳴らしてビールを呑む。
怜「あ。花は二十歳なっても酒やめとけよ」
花「え?」
怜「喘息。悪化したらいけないだろ」
花「……覚えててくれたんだ」
花「あのもしかして……山芋も?」
・怜がビール缶を置くと、小さくため息を吐き出す。
怜「てゆうか。山芋アレルギーですって言えばいいだろ」
怜「……心配しなくても、あいつらみんないい奴だから」
花「うん……ありがとう」
怜「じゃあ早速だけど。脚本見せて」
・花は手に抱えていた手帳サイズのリングノートを怜に差し出す。怜がまたふっと笑う。
怜「花のことだから、脚本ネタ帳続けてると思ってたけど変わってないのな」
花「怜が言ったんじゃん。脚本ネタ帳作って常にアイディア沸いたら書き留めておくといいって」
怜「そうだっけ?」
花「もうっ……」
・少し口を尖らせた花の隣で怜はリングノートに視線を移す。
花「ジャンルは青春・恋愛で、企画ごとにキャラ設定とあらすじ書いてて」
花「あと、おもいついた場面や台詞も書き留めてあるんだけど……」
・怜は真剣にリングノートをめくっていく。
花(怜の真剣な顔……変わってないな)
・最後まで読み終えた怜は顎に拳を当てて考えを巡らせる。
怜「……なるほど、な」
花(うわ、緊張してきた)
・花は姿勢を正す。
怜「『海と金魚』これが一番いいネタだと思う」
花「ほんと! 私が一番気に入ってるネタなの」
怜「高校三年生で恋人同士の男女が、互いの夢の為に別れを決意する。互いの夢の為に葛藤する点にフォーカス当てるのは正解」
怜「あと、ここ良い。『海』を夢を追いかける為に上京した東京の夜に、また『金魚』を自分自身に例えて、海で金魚は生きられないと比喩」
怜「ヒロインはヒーローと別れたけど、上京して夢を追い求めてもどこか満たされない。やがてヒーローへの想いが溢れて自分で制御できない感情に溺れそうになる。ヒロインの切ない恋愛感情に共感性と納得感があるし、なにより題名がキャッチーだ」
怜「台詞回しに関しても悪くない。ただ、問題は肝心の登場人物が弱い」
怜「感情がまだまだ薄いっていうか、もっと深みがあればなって」
怜「一度見たら忘れられないような、心が揺さぶられて世界がひっくり返るような人間臭さが欲しい」
・怜は花を真剣な眼差しで見つめる。
怜「今のままじゃ撮れない」
・花は両手の拳をぎゅっと握りしめる。
花「率直に言ってくれてありがとう」
花「もう一度練ってみる。それでダメだったらまた何度でも書き直す」
花「怜が撮りたいって思う脚本、絶対かいてみせるから」
・怜は花の決意を聞いて頷く。
怜「でも正直驚いたわ」
花「怜?」
怜「脚本、すっげー上手くなってんじゃん」
・怜の笑顔に鼓動が大きく跳ねる。
花「嬉しい……いつか怜と映画作れたらって思ってたから」
花「いまこうやって話せてるの奇跡だよね」
・花の笑顔にまた一瞬、見惚れる怜。怜はすぐに視線を逸らす。
怜「ま。お手並み拝見だな」
花「望むところ」
・二人はお互いに顔を見合わせて笑う。
花「じゃあ、そろそろ帰るね。明日バイトだし」
・花が立ち上がると、怜も立ち上がる。
怜「バイトしてんの?」
・二人は話しながら玄関に向かう。
花「うん。勉強優先だから週に二回だけなんだけど、商店街の中のパン屋さんで」
・花はサンダルを履く。
怜「へぇ。何時まで」
花「ん? 十二時までだけど?」
怜「ふうん。ま。頑張って」
花「うん、おやすみ」
・花は怜の部屋を出る。
──怜の部屋──(怜視点)
・花が帰ったあと、怜は机の引き出しから『ハナと夢の国』のDVDを取り出す。
怜(須藤作品は全部処分したけど、これだけは捨てられなかった)
怜(花との大事な思い出だから)
怜「奇跡、か……」
怜「……ほんと変わってないのな」
・怜は花のことを考えながらスマホの自分のアイコン(花と一緒にした線香花火の写真)を見つめる。
──花の寝室──
・怜の家から帰宅してすぐに布団に潜り込む花。
花(なんか未だに実感がわかないけど)
花(夢じゃないよね……)
花(また怜に会えただけじゃなくて)
花(怜と映画を作れるなんて)
花「う~っ、寝れない……っ」
・そのときLINEにメッセージが入る。
・花は枕元に置いていたスマホを手に取り、驚く。
怜──『俺の登録しとけよ』
・怜から花に個別メッセージが届いている。
・線香花火のアイコンに『怜』と登録された画面をじっと見つめる。
花「夢じゃない……」
・花は早速怜に返事を送る。
花──『今日はありがとう。これから宜しくね』
・すぐに怜から返事が返ってくる。
怜──『りょーかい』
・花はそのメッセージに微笑むと目を閉じる。
(翌朝)──パン屋『シンデレラベーカリー』──
・パン屋でアルバイト中の花。
花「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
・会計を終えたお客様に商品が入った袋を手渡す。
・店内には誰もいなくなる。
麻友「お疲れ様でーす」
・花のバイトと交代するためにやってきたのは美容専門学校に通っている麻友(一回生)
※(ボブでネコ目。美容師を目指してる可愛らしい女の子)
花「あ、麻友ちゃん、お疲れ様」
麻友「レジ代わるよ。あと五分で花ちゃん上がりだし」
花「ありがとね。おなか減った~」
花「バイトあがりにパン買って帰ろうかな」
麻友「新商品の『猫ちゃんチョコパン』、残り一個だよ」
花「かわいいよね、気になってるのー」
・猫が描かれたチョコパンをチラッと見る花。
麻友「あ! て言うかさ。バイト来る時、店先にすっごいイケメンが居たんだけど~誰かと待ち合わせかな?」
花「へぇ~、そんなイケメンなの?」
麻友「あ……っ、花ちゃんあの人だよ!」
・麻友がガラス越しにイケメンを発見する。
・そして花が振り向いたと同時にドアベルがカランとなり、扉が開く。
・店に入ってきたのは怜。
花「えっ! 怜?!」
・驚く花を面白げに見る怜で、四話〆。
花「え……っ!」
・その声に隣のベランダから出てきた人物も花を見て目を見開いている。
怜「は?!」
花「……な、なんで怜が……」
・怜が唇に人差し指を当てる。
・深夜なので、二人はベランダ越しに顔を近づけると小さな声で会話し始める。
怜「……こっちの台詞。誰か隣に引っ越してきたなとは思ってたけど、花だったのかよ」
花「お互い表札出してないし、全然気づかなかったよね」
怜「偶然重なりすぎだろ」
花「確かに……」
花(怜と再会して、怜と同じサークルで映画作ることになっただけでも奇跡みたいなのに)
花(家がお隣さんだとは……)
・怜が小さくため息をはきだす。
怜「じゃあ」
花「待って」
怜「なに」
花「私、ほんとに『REI』に入ってもいいの?」
怜「なんで俺に聞くの?」
花「ずっと怜、不機嫌だったし、強引に入れて欲しいって言ったけど本当は嫌かなって」
怜「俺とか関係ないじゃん」
花「え……?」
・怜は花の目を見る。
怜「──花の映画への情熱って本物だろ」
怜「俺は映画への情熱が面白いくらい、並外れたやつと作りたい」
怜「ただそんだけ」
花(怜……)
・怜の言葉に嬉しく思いながら、見とれる花
花(変わってない……)
花(怜はやっぱり、怜だ)
・花は胸がぎゅっとなる。
怜「それに俺が納得できる脚本、書ける自信あるんだろ?」
花「……絶対、面白いって言わせてみせる」
怜「楽しみにしてる」
・怜は唇を持ち上げる。
・花は夜空を見上げながら夜風に吹かれる。
花「やっと、怜と映画を作る夢が叶うんだね」
・そして怜に視線を移す。
花「すっごいワクワクする」
花「大冒険だね」
・花の笑顔に怜は見とれる。
怜「……脚本ネタあるんだろ、見てやろうか?」
花「いいの!?」
怜「じゃあ俺んち来て」
花「え……今から? 二人きりで?」
怜「何その顔。俺が襲うとか思ってるわけ?」
花「いや、そうじゃないけど」
花(女子校だったから男の子の家にいくの初めて……)
怜「あー。やっぱいいわ」
・怜が部屋に入ろうとする。
花(あ……)
花「待って! 行く」
怜「じゃあ十秒な」
花「みじかっ……」
・怜がいたずらっ子のような笑みを浮かべながらベランダから室内に入る。
・花も慌てて室内に入ると、脚本ネタ帳を抱えて怜の家へ。
──怜の自宅──
恋(押した方がいいよね)
──ピンポーン
・すぐに扉が開くと、怜が呆れながら出てくる。
怜「鍵あいてるし」
花「でも勝手に開けていいのかなって」
怜「真面目かよ。どーぞ」
花「お邪魔、します」
・怜は玄関からダイニング兼寝室に向かって歩いて行く。(※1DKの部屋を想定。四畳ほどの寝室と8畳ほどのダイニング兼キッチン)
花「わぁ……」
・花は大きな本棚の前に行く。映画DVDや映画関連雑誌がびっしり詰まっている。またカメラなど映画に関するものが整理整頓されておいてある。
花(映画好きにはたまらないものばっかり)
花(怜らしい部屋だな)
花(あれ、でも須藤敬監督作品が……ひとつもない?)
怜「適当にそのへん座ってて」
・怜はソファーを指さす。
花「あ、うん」
・花はソファーの下にちょこんと座る。
・そして花はハッとする。
花「あの、彼女さんは大丈夫なの?」
怜「誰って?」
花「だからその、怜の彼女さん」
花「夜中に脚本見て貰うだけとはいえ、いいのかなって」
怜「彼女いない。遊びだから」
花「え……っ、遊びって……」
怜「お互い暇なときに会ってホテル行くってだけ」
花「そう、なんだ……」
怜「なに? 悪い?」
花「べ、別に……私には関係ないことだし」
怜「それもそうだな」
・突き放すような言い方に花は胸がズキッとする。
・二人の間が一瞬だけシンとする。
怜「てかビールでいい? って未成年か」
・怜は話題を変え、冷蔵庫からビールの缶とペットボトルの水を取りだす。
怜「水しかないけど」
・怜は花にペットボトルを渡す。
花「ありがと」
怜「なんで正座?」
・怜は花の目の前にしゃがみ込む。
花「ほんとだ……緊張して、つい」
・花が足を崩すのを見ながら怜がククッと笑う。
怜「すっぴん見せといて、今更なんの緊張?」
花(すっぴん?!)
花「……っ?!」
・花は慌てて顔を隠す。
花「ご、ごめん、ちょっと見ないで」
花(いくら怜が脚本見てくれるのが嬉しかったからって)
花(私ってば……うっかりしずぎ)
花「せめてマスクしとけば良かった」
怜「いらねぇだろ」
・そう言って怜がぷっと笑う。
怜「中学ん時から全然変わってないじゃん」
花(全然変わってないってちょっとショック)
花「こ、これでもメイクとかも勉強してるんだけど」
怜「まぁ、俺は素の花のが見慣れてるからな」
花「それは中学の時は化粧してなかったからでしょ」
・怜もソファーには座らず花の隣であぐらをかく。
怜「花は花だから、俺はどっちでもいいんだけどな」
花(それどういう意味で言ってるの)
花(聞きたいけど聞けない)
花(今はこの懐かしい感じが、嬉しくて、ただただくすぐったい)
・恋の鼓動がすこし早くなる。
・怜はビール缶のプルタブを開ける。
花「怜、ビール好きなんだね」
怜「別に。多少酔えればいいってだけ」
・怜は喉を鳴らしてビールを呑む。
怜「あ。花は二十歳なっても酒やめとけよ」
花「え?」
怜「喘息。悪化したらいけないだろ」
花「……覚えててくれたんだ」
花「あのもしかして……山芋も?」
・怜がビール缶を置くと、小さくため息を吐き出す。
怜「てゆうか。山芋アレルギーですって言えばいいだろ」
怜「……心配しなくても、あいつらみんないい奴だから」
花「うん……ありがとう」
怜「じゃあ早速だけど。脚本見せて」
・花は手に抱えていた手帳サイズのリングノートを怜に差し出す。怜がまたふっと笑う。
怜「花のことだから、脚本ネタ帳続けてると思ってたけど変わってないのな」
花「怜が言ったんじゃん。脚本ネタ帳作って常にアイディア沸いたら書き留めておくといいって」
怜「そうだっけ?」
花「もうっ……」
・少し口を尖らせた花の隣で怜はリングノートに視線を移す。
花「ジャンルは青春・恋愛で、企画ごとにキャラ設定とあらすじ書いてて」
花「あと、おもいついた場面や台詞も書き留めてあるんだけど……」
・怜は真剣にリングノートをめくっていく。
花(怜の真剣な顔……変わってないな)
・最後まで読み終えた怜は顎に拳を当てて考えを巡らせる。
怜「……なるほど、な」
花(うわ、緊張してきた)
・花は姿勢を正す。
怜「『海と金魚』これが一番いいネタだと思う」
花「ほんと! 私が一番気に入ってるネタなの」
怜「高校三年生で恋人同士の男女が、互いの夢の為に別れを決意する。互いの夢の為に葛藤する点にフォーカス当てるのは正解」
怜「あと、ここ良い。『海』を夢を追いかける為に上京した東京の夜に、また『金魚』を自分自身に例えて、海で金魚は生きられないと比喩」
怜「ヒロインはヒーローと別れたけど、上京して夢を追い求めてもどこか満たされない。やがてヒーローへの想いが溢れて自分で制御できない感情に溺れそうになる。ヒロインの切ない恋愛感情に共感性と納得感があるし、なにより題名がキャッチーだ」
怜「台詞回しに関しても悪くない。ただ、問題は肝心の登場人物が弱い」
怜「感情がまだまだ薄いっていうか、もっと深みがあればなって」
怜「一度見たら忘れられないような、心が揺さぶられて世界がひっくり返るような人間臭さが欲しい」
・怜は花を真剣な眼差しで見つめる。
怜「今のままじゃ撮れない」
・花は両手の拳をぎゅっと握りしめる。
花「率直に言ってくれてありがとう」
花「もう一度練ってみる。それでダメだったらまた何度でも書き直す」
花「怜が撮りたいって思う脚本、絶対かいてみせるから」
・怜は花の決意を聞いて頷く。
怜「でも正直驚いたわ」
花「怜?」
怜「脚本、すっげー上手くなってんじゃん」
・怜の笑顔に鼓動が大きく跳ねる。
花「嬉しい……いつか怜と映画作れたらって思ってたから」
花「いまこうやって話せてるの奇跡だよね」
・花の笑顔にまた一瞬、見惚れる怜。怜はすぐに視線を逸らす。
怜「ま。お手並み拝見だな」
花「望むところ」
・二人はお互いに顔を見合わせて笑う。
花「じゃあ、そろそろ帰るね。明日バイトだし」
・花が立ち上がると、怜も立ち上がる。
怜「バイトしてんの?」
・二人は話しながら玄関に向かう。
花「うん。勉強優先だから週に二回だけなんだけど、商店街の中のパン屋さんで」
・花はサンダルを履く。
怜「へぇ。何時まで」
花「ん? 十二時までだけど?」
怜「ふうん。ま。頑張って」
花「うん、おやすみ」
・花は怜の部屋を出る。
──怜の部屋──(怜視点)
・花が帰ったあと、怜は机の引き出しから『ハナと夢の国』のDVDを取り出す。
怜(須藤作品は全部処分したけど、これだけは捨てられなかった)
怜(花との大事な思い出だから)
怜「奇跡、か……」
怜「……ほんと変わってないのな」
・怜は花のことを考えながらスマホの自分のアイコン(花と一緒にした線香花火の写真)を見つめる。
──花の寝室──
・怜の家から帰宅してすぐに布団に潜り込む花。
花(なんか未だに実感がわかないけど)
花(夢じゃないよね……)
花(また怜に会えただけじゃなくて)
花(怜と映画を作れるなんて)
花「う~っ、寝れない……っ」
・そのときLINEにメッセージが入る。
・花は枕元に置いていたスマホを手に取り、驚く。
怜──『俺の登録しとけよ』
・怜から花に個別メッセージが届いている。
・線香花火のアイコンに『怜』と登録された画面をじっと見つめる。
花「夢じゃない……」
・花は早速怜に返事を送る。
花──『今日はありがとう。これから宜しくね』
・すぐに怜から返事が返ってくる。
怜──『りょーかい』
・花はそのメッセージに微笑むと目を閉じる。
(翌朝)──パン屋『シンデレラベーカリー』──
・パン屋でアルバイト中の花。
花「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
・会計を終えたお客様に商品が入った袋を手渡す。
・店内には誰もいなくなる。
麻友「お疲れ様でーす」
・花のバイトと交代するためにやってきたのは美容専門学校に通っている麻友(一回生)
※(ボブでネコ目。美容師を目指してる可愛らしい女の子)
花「あ、麻友ちゃん、お疲れ様」
麻友「レジ代わるよ。あと五分で花ちゃん上がりだし」
花「ありがとね。おなか減った~」
花「バイトあがりにパン買って帰ろうかな」
麻友「新商品の『猫ちゃんチョコパン』、残り一個だよ」
花「かわいいよね、気になってるのー」
・猫が描かれたチョコパンをチラッと見る花。
麻友「あ! て言うかさ。バイト来る時、店先にすっごいイケメンが居たんだけど~誰かと待ち合わせかな?」
花「へぇ~、そんなイケメンなの?」
麻友「あ……っ、花ちゃんあの人だよ!」
・麻友がガラス越しにイケメンを発見する。
・そして花が振り向いたと同時にドアベルがカランとなり、扉が開く。
・店に入ってきたのは怜。
花「えっ! 怜?!」
・驚く花を面白げに見る怜で、四話〆。



