★一話『映画のような恋だった』

(回想)
ヒロイン・有瀬花(ありせはな)(私にとって、(れい)は初めての恋だった)
花(それは夏の海のように青く透き通っていて)
花(線香花火の終わりのように、儚く消えていった)
花(──あの恋は映画みたいだった)

四年前。
──図書館前・駐輪場──(春)
・放課後、制服姿で図書館前に自転車を停めるヒロインの花、初出。肩までの黒髪に身長155センチ。大きな丸い目が特徴。美人というよりは可愛らしいイメージ。

花(私こと、有瀬花は自他共に認める映画オタクだ)
花(今日はお目当て映画DVDを探しに隣町にある図書館にやってきた)
花「この図書館なら大きいし、『ハナと夢の国』置いてるはず……」

──図書館・DVDコーナー──
・花はDVDコーナーでうろうろしている。
・辺りには誰もいないとする。
花(ないなぁ……『ハナと夢の国』)
花(主人公のハナちゃんがとにかく頑張り屋で健気なんだよね)
花(見たかったけど、古い映画だし、この図書館もダメかな……)
・花はかがむと一番下の棚もじっくり見ていく。
・そしてお目当ての『ハナと夢の国』のDVDを発見。
花「あ! あった」
・手をのばした瞬間、大きな手の指先と触れる。
花「あ……っ」
・視線をあげれば、綺麗な顔の男の子(=ヒーロー夏宮怜。他校のブレザーの制服を着用)と目が合う。
花(うわ……イケメン……)

怜「俺、これ見たいから」
・怜はそういうと『ハナと夢の国』DVDを取って、立ち去ろうとする。

花「ちょっと、待って」
怜「なに?」
花「そのDVD……、ずっと探しててやっと見つけたの」
怜「早い者勝ちだろ?」
花「えっ……同時だったじゃないっ」
怜「はぁ。めんど」
花「何それ、何様なの……?」
花(こんなやつにせっかく見つけた『ハナと夢の国』渡したくない)
怜「じゃあチャンスやるよ」
怜「じゃんけんで勝ったら先に貸してやる」
ハナ(な……っ)
・怜はすぐにじゃんけんの用意で右の拳を握る。

怜「はい。じゃーんけーん」
花「ちょっと待って」
怜「ぽい」
・怜がパーを出すと花は咄嗟にチョキを出す。

怜「えっ」
・怜は目を見開いて驚く。
花「嘘、勝った~」

怜「お前変わってんな」
花「はい?」
怜「俺の経験上、急なじゃんけんって咄嗟にグーだす奴が圧倒的に多いんだけど」
・怜は面白げに唇を持ち上げる。

花(とことん失礼な奴)
花「いいからそれ渡して」
・花は手を伸ばすが、背の高い怜は腕を上げてDVDを取られないようにする。

怜「なんでそんなにこの古くさい映画が見たい訳?」
花「私の宝物なの!」
花「その映画には冒険が詰まってるの!」
・その言葉に怜が反応する。

怜「冒険……」
花「さっさと渡して」
怜「お前、やっぱ面白いな」
怜「映画好きに悪いヤツいないって言うし」
怜「一緒に見よ」
・怜はニッと笑う。
花「え、何言って」
・そして怜はすたすたと視聴覚コーナーに入って行く。
花「ちょっと……! 待ちなさいよっ」

──図書館・視聴覚コーナー──
怜「お、貸し切り」
・図書館の一番端にある視聴覚コーナーに座る怜。(視聴覚コーナーには誰もいないとする)
花「ねぇ、待って! 話が違うじゃないっ」
怜「あのさー」
・背の高い怜が花をのぞき込むと、唇に人差し指を当ててシーッとする。

怜「図書館では静かにしましょうって習わなかった?」
花「……っ」
花(ちか……っ)
・顔をのぞき込まれて真っ赤になる花。
・怜は慣れた手つきでDVDをセットする。

怜「ほら、ハナ始まるよ」
・怜は隣の席を手のひらでポンポンする。

花「え……っ、なんで私の名前」
怜「なに? 見るんだろ『ハナと夢の国』」
花(あ、そっちか)
花(てゆうかなんで、こんなことに)
・花はおずおずと怜の隣に座る。

怜「──夏宮怜(なつみやれい)
花「え、なに?」
怜「俺の名前。あんたは?」
花「有瀬(ありせ)……(はな)
・その言葉に怜が一瞬、目を見開く。

怜「なるほどね。さっき自分の名前呼ばれたと思ったんだ」
花「うるさい」
・花は頬を染めて恥ずかしがる。
怜「気ぃ強。てか何年? その制服、野井(のい)中学だよな」
花「……二年だけど」
怜「じゃあ敬語使えよ。俺、湖海(こみ)中学三年」
花(え、まさかの年上……)
花「い、今更、敬語とか……ちょっと無理、かも」
怜「ぷはっ、真面目かよ。冗談」
・怜の笑顔にドキッとする。
花(不覚……見とれてしまうなんて)
・首を振る花。

怜「何してんの? 花、つけんぞ」
花「か、勝手に呼び捨てないでよ」
怜「俺のことも怜でいいから」
花「あのね……っ」
・映画が再生される。

・その瞬間、花の表情が、ぱぁっと明るくなる。
花「うわぁ……」
花「懐かしい……!」
花「ずっと観たかったの」
・無邪気な横顔を怜が見つめる。
・二人は映画を鑑賞する。

・映画が終わる。
花「あー……この世界観、やっぱ大好き」
花「主人公のハナが魔法の飴を食べたことから、周りの人のいろんな感情や自分の知らなかった世界を知って……辛いことや悲しいことがあっても乗り越えていく強さや成長が見られるのもこの映画の魅力だよね」
花「私……小さい頃ぜんそくであんま学校行けなくて、病院や家にいることが多かったんだけど、この映画にたくさん励まされたし、何より救われたんだ」
花「映画って冒険だよね!」
・花の笑顔に怜は一瞬見とれる。
怜「……」
・熱く語っていた花はそこでハッとする。

花「ごめんなさい……つい興奮しちゃった」
・恥ずかしそうに俯いた花を見て、怜はククッと笑う。

怜「花ってほんと映画好きなんだな」
花「うん! すごく好き」
花「だって心も体も別世界へ連れていってくれるから」
・怜は花の言葉に共感する。
怜「わかる。なんか魔法にかけられたみたいに時間忘れて夢中なるよな」
・花は全力でこくこく頷く。怜はクスッと笑う。

怜「花の一番好きな作品は?」
花「『ハナと夢の国』! あと結構ジャンル問わず見るけど須藤敬(すどうけい)監督の作品は全部好き」
怜「えっ、マジ?」
怜「俺も須藤監督の映画が好きでさ」
花「嘘っ! 嬉しい。結構、須藤監督の作品って好み分かれたりするから」
怜「わかる。俺のまわりの映画好きもそんな感じ」
・二人は笑い合う。

・そのあと怜が少し真面目な顔をする。
怜「……俺もいつか作りたい」
花「え?」
怜「俺、将来、映画監督になりたいんだよね。誰かに夢見させるような、心を奪うような映画を作りたい」
花「すごい……」
怜「すごいって……まだ何にもなってないけどな」
・怜が少し照れる。

花「ちゃんと夢があるのって素敵だよ」
花「えっと……じゃあ……怜の進路は?」
・花は初めて怜の名前を呼び、すこし照れくさそうにしているが怜は平然としている。

怜「映画研究部がある高校に絞ってる」
怜「花は……って一個下か」
花「うん。まだ受験は来年だけど……でも実は私も映画に携わる仕事したくて。脚本家になりたいなって」
怜「すっげ」

・花は顔の前で手のひらを振る。

花「全然だよ、独学だし。まずは小説からって思って書いて小説投稿サイトのコンテスト出してるけど全落ちだし」
怜「ペンネームは? 今度読むよ」
花「えっと……恥ずかしい」
怜「ここまで言って今更かよ」
花「笑わない?」
・怜が花を真顔で見つめる。

怜「花の夢を笑ったりしない」
・花はその眼差しにドキンとする。

花「ペンネームはアルファベットで──HANA」
怜「まんまじゃん」
花「あー、笑った」
怜「花ってすぐ怒るよな」
花「怜のせいじゃない」
・怜はいたずらっ子のように目を細めてから、制服のズボンのポケットからスマホを取り出す。

怜「はい」
・花に差し出されたスマホにはLINEのQRコードが浮かんでいる。

怜「早速読む。次会ったとき感想言うから」
・花は怜とLINE交換する。

花(今思えばきっと、このときもう恋をしていたんだと思う)
花(私の初めての恋──)
・花は鼓動が高鳴るのを感じる。


花(その日から私と怜は頻繁に会うようになり、やがて自然と付き合った)
花(決まって放課後、図書館の視聴覚コーナーで好きな映画を観ながら感想を言い合ったり、怜は私の小説や脚本についての感想やアドバイスをしてくれた)
花(私の拙い脚本を真剣に読んでくれる人なんて初めてで、照れ臭かったけどすごく嬉しかった)

花(怜と一緒にいると、描いた夢が夢じゃ終わらない気がして、二人で映画の話をするたびにまだ見ぬ未来に心が躍った)


花(毎日がキラキラと七色に輝いて)
花(怜と過ごす時間はいつも映画を観たあとのように満たされて、幸せだった)

花(でも、そんな時間は突然終わりを告げた)
花(二人で海で花火をして、初めてキスをした十日後)
花(──夏の終わりのことだった)

──河原道──(夕方)
・図書館で映画を楽しんだあと、花の家が近くなり、川沿いの道を二人で自転車を押しながら歩いている。
花「今日も楽しかったね」
花「次は何の映画借りて観る~」
花「あ! 夏が終わるまでに、また海で線香花火もしたいっ」
怜「そうだな……」
花(怜、どうしたんだろ。今日はなんだか上の空……?)

・花の家の前に到着する。
花「送ってくれてありがとう」
怜「……花、ちょっとだけ時間もらえる?」
花「いいけど……」
・二人は花の家のすぐ近くの公園へ行く。
・ベンチに座るが、怜は難しい顔をしたまま黙っている。

花「怜、どうしたの?」
怜「……ごめん花」
花「え?」
怜「俺ら、別れよ」
・頭の中が真っ白になる花。

花「……なんで……? 私、なんか、した?」
怜「違う。俺の問題」
花「どういうこと……」
怜「とにかく別れて欲しい」
・花は涙を堪えながら首を振る。

花「急になんで」
花「理由もわからないのに……別れるなんて嫌だよ……っ」
怜「ごめん」
怜「でもこれだけは信じて欲しい」
怜「花と過ごした時間は一生忘れない」
・花は涙を流す。

花「いやだ……っ、やだ……」
・怜は花をぎゅっと抱きしめる。

怜「──花が好きだった」
・そう言って怜は花に最後にキスをすると、寂しげに微笑んで立ち去る。

花(そのキスを最後に怜とは連絡が取れなくなって、二度と会うことはなかった)

(回想おわり)

──野苺芸術総合大学・校舎前──
・花はあちこちで繰り広げられているサークルの勧誘を見ながら歩いている。入学して三週間ほど経過を想定。

花(私はこの春から念願の野苺芸術大学・メディア総合学部・メディア映像芸術コースに通い始めた)
花「ここで……夢に一歩近づくんだ」
花(脚本家になる夢を叶えたい……!)
花(いつか怜に会えたら、胸を張れるように)
花「って、まずは早速出た課題に取りかからなきゃ……」
・花は姿勢を伸ばして校舎入り口を目指して歩いて行く。

花(えっと視聴覚室ってあそこの校舎だよね)
・今日も校舎前ではいろんなサークルの勧誘が行われている。

花(演劇サークルにデザイン服飾サークル……)
花(やっぱり芸術系大学は華やかだよね)
花(でも私が入りたいのは──映画サークル!)
・その時、花がぱっと目についたのは映画サークル『REI』の看板と“脚本家求む”の文字

花(REI……)
花(それに脚本家も募集してるんだ……)
・視線を奪われていると、前からモブ女といちゃいちゃしながら歩いてきた男とぶつかる。

怜「痛って」
花「あ、ごめんなさい……っ」
・そう言って男を見上げた花は目を見開く。
花(!)
・背がさらに伸びて、ピアスを開けていたりと雰囲気が変わっているが目の前には怜が立っている。 

花「──怜?」

・二人が運命の再会を果たして一話〆