再度自分のステータスを見直す。
何かヒントが隠されているかもしれない。

最後まで目を通したとき、スキル名に目が止まる。
その名称に違和感を覚えた。

()()()()()

「前借り」ではなく、「前貸し」だ。
ここで、一つの仮説が浮かぶ。

もし本来の能力が、力を貸すことで利子を得ることだとしたら。
....負債を負うのは自分ではなく相手。

この前貸しを上手く活用できれば——
返せるかもしれない。

確定ではない、あくまで仮説の話。
だが、絶望から一筋の光が見えてきた。

……では、どう魔力を奪うか?
前貸しするということは、相手に魔力を渡すことになる。
それなら——

すでに前借りした魔力を一旦、別の相手に貸し出す。
その後、貸した相手から利子を回収する。
つまり、魔力の「又貸し」。

これなら、魔力を辛うじて回収できるかもしれない。
だが、前提条件が一つある。

それは——利子の高さが複数の要素で決まること。

この案は、又貸しした相手との利子の差。
つまり利ザヤで魔力を増やす計画。
もし利子の高さが固定なら、利ザヤは生じず、魔力は増えない。

「...............」

考えろ。
他に懸念すべき点はないか。
.................................................
..........................
.................

「ブオオオオオオオオオオオオ!!!」

後ろから、魔物が接近してきた。
豚のような頭と人型の体が特徴の、オークだ。
どうやら、目的地に到達したらしい。

魔境の森に。

「......試す機会がきたか」

確か、スキルを発動するには呪文を唱えるんだったな。

力の前貸し(バンス)

《返済可能な基準を大きく下回っています。魔力(エナジー)が100未満の場合、貸し出しできません》

スキルの説明が表示される。

「.........はっ!?」

どういうことだ?
予想が大きく外れ、冷や汗が流れる。
事態は予想以上に深刻だった。

それは、前借りした100魔力(エナジー)のこと。

....なぜか負債として、元本に計上されている状況。
だから、前借りの力はまだ有していると思っていた。
しかし、魔力(エナジー)が100未満だと分かり、その線も消える。
だとしたら、前借りした魔力は一体どこにいった?

「!?」

……待てよ。
前借りする度に、元本分も余分に返すということは....。
借りた段階で最低でも利子100%を負うことを意味する。
借りた魔力が消えるという謎の仕様が影響しているせいで。

これは、前の想定よりかなりキツイ。

ズドドドドドドドドド!!

オークが咆哮し、斧を振り上げる。


「....今は目の前の問題を片付けねぇとな」

先の未来を考える余裕は、今はない。

オークは自分より格上だ。
だから、再び前借りするしか方法がない。
正直、負債に負債を重ねるのは気が引ける。
だが、これも復讐のためだ。
多少の茨の道も覚悟して進まねば。

前借りして返済する場合、対象は2体必要だ。

だが、目の前にいるのは一体だけ。

「ここは、一旦——」

相手から逃げるように森の奥へと走る。
当然、オークも追ってきた。
全速力で走るも、その差は縮まっていく。

振り返ると、オークがすぐ側まで迫っていた。
——くそっ、こうなったら....!!

「.....ファイヤーボール!」

一か八か、貴重なmpを消費して火の魔法を放つ。

すると予想外にも、オークはかなり焦りながら攻撃を交わした。
隙ができたおかげで、距離が開く。

「ブォォォォォォォォッ!!」

怒声に振り返ると、奴が斧を振り回して俺を威嚇する。

.....これだ!

まず、俺は近くの木まで猛ダッシュする。
そして、逃げる手段を逃走から木登りに切り替える。
相手が届かない距離までよじ登る。

相手は斧を持っている。
武器を捨てなければ木登りは無理だ。

さぁ、どう動く?

しばらく俺を見つめるオーク。
そして、行動を開始した——

ガッ!!バキッ!!メキメキ!!

斧で木をなぎ倒しにかかる。

どうする?
木が折れる前に下に降りるか?
…否、待ち構えているオークに捕まるだけだ。
でも、木が折れるのを待っても、結局同じだ。

他に逃げる方法は?

その時だった。

バキッバキッ!!

木が傾き始めた。

木の先端が他の木に近づく。
別の木に飛び移れるかもしれない。

俺は木の頂上を目指して進む。
木が傾いて、他の木との距離が近づく。

バキッ!!メキメキ.......

もう一振りされたら、完全に折れる……
だが同時に、最も傾いて他の木に近づいた。

そのタイミングを見計らって、正面の木に飛び移る。

「ブオオオオオオオオオオ!!!」

振り出しに戻り、完全に頭に来たのか、叫び始めた。

しばらく経つと、別のオークがこちらに向かってやってくる。

「やっと仲間を呼んだな」

これまで仲間を呼ばなかった理由は、獲物を独り占めしたかったからだろう。

通常、仲間を呼ぶのは最悪のパターン。
だがスキルの発動には2体必要だ。
今の自分にとっては、望ましい状況。

俺は、手前にいるオークがギリギリ届かない距離まで木を降りる。

.............ここからが勝負だ。
まず、木で待ち構えているオークをどうにかしなければ。
仲間のオークが挟み撃ちしてくる前に……

力の前借り(リース)!」

《力の前借りには対象が2体必要です。》

否定の説明が入る。
スキル発動には2体がある程度近づく必要があるのか。

それでも——

力の前借り(リース)!」

力の前借り(リース)!」

何度もスキルを唱え続ける。
スキル発動の距離。
それも最も離れた位置での発動を逃さないために。

力の前借り(リース)!」

力の前借り(リース)!」

《力の前借りを発動します。》

.......いまだ!!