俺はまず、魔力を”攻撃”に。
あふれ出る力で、地面からジャンプした...。

その間にも、上から急降下するラミア。

.....よく考えられた戦略だ。
炎の届かない距離まで、飛ぶには攻撃に振るしかない。
しかし、上から迫る奴を交わすには、速さに移し替える必要がある。

.....奴との距離的にそんな時間はない。

――従来までのやり方なら

リース&バンス。

体の中に二本の魔力の流れを作る。
そして、瞬時に入れ替えた。

「なっ!?」

奴が攻撃を交わされ、冷や汗をかいている。
そして、そのまま炎が無い場所にお互い着地。

「どんな手を使ったの?さっきまでは、こんなに早く移し替えることなんて.....!」

動揺を隠そうともしないラミア。
相当、余裕がなくなったのだろう。

「どんな手って.....、随分大袈裟だな。貸し借りを、同時に使っただけだというのに」

俺の言葉に、何かを察したようだ。

「....あの時、あなたの内側で2本の魔力の流れを感じた」

ラミアの体が小刻みに震え始める。

「しかも、お互いの流れが向かい合わせで...」


――そう、奴の推測通り

貸す流れと借りる流れを双方向にすることで、より速く魔力を入れ替えた。

(....内側にリース&バンスを使ってな)

ザッと音が鳴る。
地面と蛇の長い尾が、擦れた音。

奴が僅かに後ずさっていた。
その様子を見て、”ある言葉”を唱える。

力の前貸し(バンス)

流れ出た漆黒の魔力が、敵へ入り込む。
1600の内、600貸し出した。

攻撃:943《820+123》
防御:917《797+120》
魔法:897《780+117》
魔防:923《803+120》
速さ:920《800+120》



「...あなた。私の魔力まで、利子で奪うつもり?」

「あぁ。既に勝利も、確定したようなもんだからな」

奴は思わず、くちびるを噛む。

「舐められたものね。.....私を一時的にも強化させたこと、後悔させてあげる!」

一気に至近距離まで詰めてくる。
前貸しで、全ての動きに切れが増していた。

ラミアの槍が、俺を貫かんとする。
――しかし

避けずに、懐へ飛び込んだ。

剣を抜き、火花を散らす。
”攻撃”に一点集中のため、俺が優勢。

「くっ.....!まだまだこれからよ」

鉄が幾度となくぶつかる。
その度に、金属の甲高い音が鳴った。

俺が腕を振るうたび、敵の体幹が崩れていく。

「うっ――」

大きくぶれたところを蹴飛ばした。
ラミアは、その衝撃のまま地面へとダイブ。

「ファイヤーボール」

"魔法"に振り、畳み込む。
ラミアの方も、すぐに体制を戻して火炎放射を。

今度は炎が衝突する。
互いの火が相手を飲み込もうと、燃え盛る。

....が、それも長くは続かない。
打ち合いには、俺が制した。
相手の魔法が897なのに対し、俺は全振りで1000叩き込めるからだ。

相手の炎をかき消した直後、その球がラミアに直撃。


大きな悲鳴が、鳴り響く。
....身を焦がす熱さは、相当な痛みを伴うのだろう。

「........」

ゴオゴオと燃え盛る炎。

さて、そろそろ頃合いか
しばらく聞こえていた声が、ぱったりと止んだ。

俺は、目の前の炎に近づき状況を確認する。

「....しぶとい奴だな」

ラミアが地面に横たわっている。
辛うじて、火炎の中から脱出したようだ。

相手の負債プロンプトを見る。

「利子は、まだ200%か」

魔力を全て奪うには、まだ全然足りない。
.......が仕方ない、始末しよう。
奴めがけて腕をかざした。

「.....待って」

ラミアがよろけながらも、起き上がる。

「私を殺す前に取引しないかしら」

「.....取引?」

妙だ。
絶体絶命の状況だというのに、落ち着いている。

「あなたは私の魔力を全て奪いたい。.....けれど、まだ回収できるだけの利子が溜まっていないのよね?」

.....読まれていたか。
奴は、自分の負債プロンプトは見えない。
だが、俺がまだ回収しないことから()()推測したのだろう。

「私の力は全てあなたにあげる。その代わり、私を仲間にしてくれない?」

「.....分かった。その取引乗ってやる」

そう答えると、彼女は拍子抜けした表情に。

「あらっ、意外ね。提案した私が言うのもなんだけれど、疑り深いあなたなら断るかと....」

「別にあんたを信用したわけじゃねぇ。....俺の隷属化の能力で、裏切りのリスクを無くせるから乗ったまでだ」

「.....隷属化」

ラミアの目が大きく見開かれた。
きっと、内心では絶望しているに違いない。

「なんだ、怖いのか?.....ならついでに、もう一つ恐ろしいことを教えてやるよ」

奴の本心を見極めるために、恐怖心を煽った。

「隷属化した分身の命は、主の死と共に道連れになる」

分身にとっては、あまりに重い制約。
いかに澄ました顔の彼女でさえ、何か反応をしめ――

「素敵ね」

「.......はっ?」

予想外の言葉に思わず聞き返してしまう。

「愛する人と共に死ねるなんて、とてもロマンティックだわ」

奴は、恍惚とした表情でそう呟いた。

「あんた、相当歪んでるな」

「そう?乙女に何のためらいも無く火を浴びせる、あなたも同類だと思うけど」

一本取られた俺は、肩をすくめながら苦笑する。

「....で、話を戻すが。......力の譲渡の前に、あんたには仲間を紹介しようと思う」

そう言って、俺は召喚(サムン)と唱える。
地面に浮かぶ魔法陣。
しばらくして、出てくる魔物達。

「これが、今から仲間になる分身たちだ。よろしくしてやってくれ」

「....えぇ、分かったわ」

敵の視線が分身たちに移る。
分身達の方も、ラミアに近づく。
そして、一斉に手を差し伸べ握手を求めた。

「ふふっ。私、手が二本しかないのだから一斉には無理よ」

少し呆れたように苦笑している。

「どうだ?....多数のオーク達に、握手をせがまれる気分は」

「とっても新鮮よ。.....まるでお姫様になった気分」

彼女は、2体の分身の手と同時に握手する。

――つまり、両腕が塞がった

俺は小さな声で、”召喚(サムン)”と再び唱える。
一体、保留させていた分身(オーク)を召喚。
すぐさまオークは、ラミアの背後へ忍び寄る。

力の前貸し(バンス)

その掛け声とともに、俺の全魔力を注がれたオークが。
鉈で、彼女の腹を勢いよく貫いた。

「......ど...う...し...て」

痛みによって、身を悶えさせるラミア。
だが、手が繋がれている為逃げることもできない。

「わ...た...しを...だ...ま...し...たの」

彼女が力を振り絞って、後ろを振り向く。
非難の目で俺を睨みつける。

「何言ってんだ。騙し合ってたのはお互い様だろ」

そして、俺はこう続ける。

「あんたの方こそ、その色恋を使って幾つの屍を築いた?」