俺は、兵士の一太刀を交わす。
そして、すぐさま自分も剣を敵の首に。

「ぐっ――」

兵士の斬られた首筋から血が舞った。

「グアウ!!」

フォンが体当たりで兵士を吹き飛ばす。

「なんだ!?こいつら…雑魚じゃなかったのか」

「いや、最初の二人が弱すぎただけだ。全員でかかれば勝てる!」

「かかれ!!」

「「うおおおおおお!!!」」

俺たちは攻撃を避けつつ、カウンターを叩き込む。
そのたびに敵の声が消える。

「ガアウゥゥゥ!!」

フォンの咆哮に、兵士たちが怯む。

その隙に、次々と首をはねる。
俺と相棒の連携は完璧だった。

「はぁ…はぁ…だいたい片付けたか」

「フン。雑魚が手間取らせやがって」

様子をうかがっていたシタールが、ようやく動き出す。

「俺が格の違いを見せてやる」

対峙して、わかる。
S級の規格外さが。

(こいつ…とんでもない魔力だ)

シタールの姿が消えた――!

いや、すでに間合いを詰められていた。

ギィン!!

俺の剣が弾かれる。

「死ねぇ!!」

すかさず首を狙ってくる。

くそっ、やられ――

次の瞬間、大量の血が飛び散る。
だが、それは俺のではなかった。

「ク…オ…ウ」

フォンの血だった。
俺を庇い、身代わりになったのだ。

「......フォン!!」

どうする!?
すぐに手当てしなければ死ぬ。
だが、どう逃れる?

混乱で思考がまとまらない。

「…おい、貴様」

シタールが低く呟く。

「俺の紋章を汚したな」

まずい。
フォンが狙われた。

「フォン!今すぐ離れろ!」

時間を稼ぐため、シタールに飛び掛かる。

だが――

腹に剣が突き刺さった。
鋭い痛み。
全身が金属を拒絶するような感覚。

「ゔぅ…早く…逃げ…ろ……!? ぐわぁ――」

剣が抜かれ、そのまま崩れ落ちる。

「おい、化け物。覚悟はできてるな?」

「ヴクォッ」

フォンが蹴り上げられ、宙を舞う。

「…おい…糞ナルシスト…狙いは俺だろ…フォンには…手を出すな…」

「断る。貴様より先に、こいつを殺す」

やめろ。俺の命ならくれてやる。だから――

「頼む…頼むから……!俺を殺せよ…!なんで…なんでフォンまで――!!それに…S級勇者が…低級モンスター相手に…ムキになるのか…?」

「だからこそだ…」

シタールの体が震える。

「だからこそ、見逃せねぇ!雑魚のくせに、汚しやがって!!」

ドンッ。
鈍い音が響くたびに、フォンの体が転がる。

「貴様の汚ねぇ血のせいで、紋章が台無しだ!」

フォンはもう声も出せない。
かすかに動く耳が、最後の抵抗に見えた。

俺は――見ていることしかできなかった。

(くそっ!!助けなきゃ…!なのに…なんで動けないんだ!!)

乾いた音が続く。
フォンの体が跳ね、地面に沈む。

そして……かすかに震えていた息が、今、止まった。

「………………」

「あれ?経験値入ってる。いつの間に死んだんだ?ちっ、雑魚すぎてサンドバッグにもならねぇのかよ」

……死んだ?

その言葉が理解できないほど、頭が真っ白になる。
だが、じわじわと現実が染み込んでくる。

息が詰まり、肺が空気を拒む。
全身から汗が吹き出す。

……殺す。貴様だけは……どんな手を使ってでも。

《スキル進化の条件クエストを半分達成しました》

……!?

《スキルの一部を開放》

...............!!?
魔力が流れ入ってくる!
横に倒れている兵士から、流入した魔力だ。

力が湧き上がる。
体が、動く!

「よく見たら、こいつの毛皮は高く売れそうだな……」

貴様……。
殺すだけでなく、尊厳まで踏みにじる気か。

俺は、傍らの兵士が落とした短剣を握る。

シタールは俺に背を向け、皮剥ぎに夢中。
今なら、殺せる。

静かに忍び寄る。
あと1メートル。

渾身の力で、胸を突く。心臓のあたりを狙って。

「ぐふ――」

傷口を抉るように短剣を引き抜く。
背後からでも、奴が血を吐いているのがわかる。

シタールが振り返った瞬間――
短剣を、その顔に叩き込む。

「…あ…ああああああああああああああああ!!!!」

どうやら、左目に刺さったらしい。
ざまあみろ。

「てめぇッ!! よくも……この俺の目をッ!!」

ドンッ!!

シタールが怒り狂い、俺の腹を蹴り上げる。
その勢いで、地面に転がった。

(くっ……そ)

まだ、息の根は止めていないのに。
傷を蹴られ、意識が遠のく。

「殺す。すぐにモンスターと同じ場所に――」

「…やめなさい!!」

遠くから駆け寄る足音。
幻か?
意識が途切れる寸前、誰かの――女の声が、耳に届いた。

………………
…………


《スキル進化の条件クエストを八割達成しました》


※追記
次回、多くの読者が予想できない衝撃が待ってます。
ぜひ、お楽しみに