〇祭り会場近く・人気のない公園のベンチ(夜)
愛美、涙目で怯えるように壮太を見上げる。
愛美、浴衣がはだけて下着が見えている。
壮太、怒った顔で愛美に覆いかぶさる。
愛美M「怖い……」
〇実家近く・祭り会場(夜)
T「30分前」
壮太、怖い顔で愛美に問う。
壮太「愛美は彼のセフレなの?」
愛美「え……」
愛美、困惑した顔をする。
愛美「セフレじゃない! 付き合ってもないし……」
愛美「先輩とは本当に一緒に住んでるだけで……」
愛美、俯く。
壮太、声を荒げる。
壮太「だから、それがおかしいんだよ!」
愛美、ビクッとして怯えるように壮太を見る。
壮太「何で付き合ってもない男と同居すんだよ?」
壮太「肉体関係を持ってるとしか思えないだろ……」
壮太、イラついたように頭を掻く。
愛美M「借金のことなんか言えないよ……」
愛美、周囲の視線が気になり始める。
愛美、壮太を宥める。
愛美「場所移動してゆっくり話そう?」
〇祭り会場近く・人気のない公園のベンチ(夜)
愛美、ベンチに腰かけたまま俯く。
愛美M「どう説明したら信じてもらえる?」
愛美、心配そうな顔。
壮太、愛美を見て問う。
壮太「脅されてんのか?」
愛美「脅されてない」
壮太「弄ばれてんじゃ?」
愛美「それは……」
愛美M「否めない」
壮太、目を潤めながら愛美に訴える。
壮太「俺は愛美が心配なんだ。守りたいんだよ」
愛美、目を潤める。
愛美「壮ちゃん、大丈夫だよ。私、騙されてないから」
壮太、一瞬で怖い顔に変わる。
壮太「……何も分かってない」
愛美、不安をそうな顔で問う。
愛美「壮ちゃん……?」
壮太、愛美の浴衣を脱がそうとする。
愛美「キャッ! やめて!」
愛美、必死に抵抗する。
壮太、ベンチに愛美を押し倒して覆いかぶさる。
愛美M「……!」
愛美、涙目で怯えるように壮太を見上げる。
愛美、浴衣がはだけて下着が見えている。
壮太、怒った顔で愛美に覆いかぶさる。
愛美M「怖い……」
愛美、身体を震わす。
壮太「騙されてない? 何の根拠があってそんなこと言ってんの?」
壮太、冷たい目で愛美を見る。
壮太「愛美はアイツのこと、どれだけ知ってる?」
愛美、壮太を見つめたまま言葉が出てこない。
壮太「大学生で高級外車に乗ってるなんて、普通じゃないだろ?」
壮太「所有物も食べ物も行く所も、全部高級じゃなかったか?」
愛美、呆然とする。
愛美M「高価な腕時計、サングラス」
愛美M「食べ物は高級品を平気で買おうとするし」
愛美M「高級寿司も慣れてる感じだった……」
壮太「アイツの家は普通じゃない。俺らとは住む世界が違うんだ!」
愛美M「普通じゃないってどういうこと?」
愛美、眉間にシワを寄せる。
壮太「価値観だって違う。一緒に居ても愛美が辛いだけだ」
壮太、悲しい顔をして愛美に顔を近づける。
愛美、ギュッと目をつぶる。
壮太、愛美に耳打ちする。
壮太「いい加減気づけよ。愛美は利用されてるんだ」
愛美、パッと目を開けて壮太を見る。
壮太「便利な家政婦ぐらいにか思われてない」
愛美、目を潤めて小声で言う。
愛美「やめて……」
壮太「嫌になったら捨てて、他の女に寄生する」
壮太、嘲笑う。
壮太「いかにもアイツがやりそうだな」
愛美M「先輩がそんなこと……」
(回想)
〇ショッピングモール・エレベーター前
匠、愛美に背中を向けたまま言う。
匠「いつも弁当作ってもらってるから」
〇愛美のアパート。リビング(朝)
匠、本を見つめたまま冷たく言う。
匠「俺は不味いものでカロリー摂取しない主義だ」
(回想終了)
〇祭り会場近く・人気のない公園のベンチ(夜)
愛美M「先輩は不器用な人だ」
愛美、唇を噛みしめる。
愛美M「でも本当は優しい人」
愛美M「私が作ったものを残したことがない」
愛美、涙を流す。
愛美M「美味しい、可愛い、好き」
愛美M「私の聞きたい言葉なんて言ってくれない」
愛美M「でも、行動で示してくれてた」
愛美、泣きながら壮太を睨んで声を荒げる。
愛美「先輩のこと悪く言わないでよ!」
壮太、驚いた顔。
壮太「愛美……」
愛美、涙を拭って決心したような顔をする。
愛美「騙されててもいい。……好きなんだもん」
愛美「私が先輩と居たいから一緒に住んでるの!」
愛美、壮太を突き飛ばす。
壮太、ショックを受けたような顔。
壮太、怖い顔で怒鳴る。
壮太「アイツとは一緒には居られない!」
愛美、怒って言い返す。
愛美「そんなの分かんないじゃん!」
壮太、涙を流しながら震える声で言う。
壮太「愛美じゃ無理なんだって……」
壮太「……アイツは御曹司だ。婚約者も居る」
愛美「え?」
愛美M「婚約者……?」
壮太「俺たちが関わっていい相手じゃないんだ」
愛美、言葉を失う。
愛美M「嘘だよ……。御曹司なら借金完済の為に同居なんかしない」
愛美M「住み慣れた家を離れて、狭いアパートに住んだり」
愛美M「大衆的なご飯を食べたりしない」
愛美「嘘つかないでよ……」
愛美、壮太から顔を逸らして動揺を落ち着かせるように自分の腕を摩る。
壮太、真剣な顔で愛美を見つめる。
壮太「医療機器メーカーの『KUROKAWA』知ってるだろ?」
愛美「KUROKAWA……」
愛美、ハッとする。
壮太「そこの会長が、アイツの父親だ」
愛美、呆然とする。
(回想)
〇明侑大学・医学部実習室(夕方)
愛美、除細動器のメーカー名を見つめる。
愛美M「この『KUROKAWA』って、やたらあるんだよね」
愛美、実習室の機器を見渡す。
愛美M「あれも、あっちも、向こうのも……」
愛美M「病院でもよく見かけたし。人気なんだ……」
匠、静かに愛美の背後から近づいて愛美の肩に顎を乗せる。
愛美、ビクッとする。
匠「何見てんの?」
愛美M「近いよ……」
愛美、緊張したように答える。
愛美「このメーカー、いっぱいあるなぁと思って見てました」
匠、淡々と説明する。
匠「あぁ、循環器系の医療機器が得意で、シェア率70%越えらしい」
愛美「へぇ……」
愛美M「やっぱ人気なんだ」
匠、愛美を見つめる。
匠「お前、全然興味ねぇだろ?」
愛美、焦って苦笑いする。
愛美「そんなことないです! ただ……」
匠「ただ……?」
愛美「そんなすごい会社の上層部の人たちは責任も重そうだなと思って」
匠、俯く。
匠「だろうな……」
匠、真剣な顔で愛美を見つめる。
匠「もし俺がその上層部になったら……、お前はどうする?」
愛美「えっ? そうですねぇ」
愛美M「そうなったら、もう会えないよね……」
愛美、少し考えて笑顔で答える。
愛美「会えなくなると思うので、陰ながら応援します」
匠、機嫌悪そうに愛美を睨む。
愛美「何で睨むんですか?」
匠「全然、理想の答えじゃない」
愛美、クスっと笑う。
愛美「じゃあ、先輩の理想の答えは何だったんですか?」
匠、愛おしそうに愛美の髪に触れる。
愛美M「先輩……?」
匠、真剣な顔で愛美をジッと見つめる。
匠「何があっても絶対離れない。一生そばに居る」
愛美、ドキッとする。
匠、急におちゃらける。
匠「まぁ俺にも無縁の話だけどな!」
愛美、匠の笑った顔に釘付けになる。
愛美M「先輩に愛される人は幸せだろうな」
(回想終了)
〇祭り会場近く・人気のない公園のベンチ(夜)
壮太「大学にも附属病院にも『KUROKAWA』の機器が多いだろ?」
壮太「あれはアイツの父親の会社と大学がビジネスパートナーだからだ」
愛美「そう……」
愛美、放心状態に陥る。
愛美M「どんなに好きでも、もう無理なんだ……」
〇愛美の実家近く・祭り会場(夜)
匠、焦ったように人混みをかき分けて愛美を探す。
匠M「……何で言わねぇんだよ?」
匠、切なそうな顔。
匠M「アイツが好きなのか?」
匠、小さな紙袋を手にしてあたりを見渡す。
匠M「だから俺は邪魔なのか?」
匠、ポケットからスマホを取り出して愛美に電話をかける。
匠「クソ……」
匠M「嫌いならハッキリ言えよ……」
匠、目をにじませる。
匠「こうやって逃げるなら、最初から関わんなよ」
匠、視界の端で一瞬愛美らしき人物が見えた気がする。
匠M「愛美⁉ ……俺をおいてくなよ」
匠、その方向を見つめて走り出す。
愛美、壮太に支えられながら匠とは逆側に歩いていく。

