〇愛美のアパート・愛美の寝室(朝)
匠、愛美の残り香を嗅ぎながら布団に包まる。
匠「あぁ、ムカつく」
匠M「俺よりもアイツを頼るんだ……」
匠、口を尖らせる。
匠M「俺だって頼まれれば送迎ぐらいしてやるし……」
匠、布団の中で転がる。
匠M「今頃アイツと何やってんだ?」
匠、枕元に置いたスマホにメッセージが届く。
匠、咄嗟に布団から顔を出して期待するように見る。
匠M「愛美⁉」
匠、メッセージを見て固まる。
◯ショッピングモール・フードコート
愛美、人の多さに圧倒する。
壮太、ニコニコしている。
壮太「活気があっていいね! 浴衣の人も多いし、夏っぽいな」
愛美、クスッと笑う。
壮太、驚いたように問う。
壮太「え? 俺、変なこと言った?」
愛美、首を横に振る。
愛美「ポジティブで良いなぁと思って」
壮太「そうかな?」
壮太、照れ笑いする。
愛美、笑顔で頷く。
愛美「壮ちゃんと一緒に居ると元気になれる!」
愛美「今日は彼女役に慣れてラッキーだ」
愛美、太鼓判を押す。
壮太、顔を赤らめて真顔になる。
壮太「じゃあ……、明日も明後日もずっと彼女にならない?」
愛美「えっ?」
愛美、きょとんとしてしばらく考える。
愛美M「幼馴染、憧れの先輩、頼もしいお兄ちゃんを卒業して」
愛美M「恋人になるという選択もあるんだ……」
愛美、脳内に匠の拗ねた顔が浮かぶ。
愛美M「先輩より壮ちゃんの方が大人で」
愛美M「一緒に居て楽だ」
愛美、口を開こうとした時に壮太が言う。
壮太「答えは今じゃなくていいよ。返事待ってる」
壮太、優しく言う。
愛美M「空気を読んで、先回りして」
愛美M「私が困らないようにしてくれる」
壮太、あちこち見渡しながら空席を探し始める。
愛美、壮太を見つめる。
愛美M「壮ちゃんのそういう優しいところが好き」
壮太、空席を見つけて嬉しそうにする。
壮太、席がなくて困っていた子供連れ家族に席を譲る。
愛美「ホント、優しすぎる」
愛美、微笑んだ後、つい匠のことを考えて暗くなる。
愛美M「きっと先輩なら……」
(空想)
愛美N「ケース① 怒る」
匠、不機嫌な顔。
匠「おい、席ねぇぞ? 俺に立ち食いしろっていうのか?」
愛美N「ケース② 拒否」
匠、迷惑そうな顔で言う。
匠「フードコートなんて、うるせぇだけだろ? 絶対行かねぇ!」
愛美N「ケース③ 喧嘩」
匠、歩いていて客と肩がぶつかる。
匠、相手を睨みつける。
匠「おい、てめぇ! どこ見て歩いてんだよ?」
(空想終了)
愛美、ため息をつく。
愛美M「悲しいほど、明るい未来が見えない……」
壮太、空席を見つけ手を振って愛美に合図する。
愛美、嬉しそうな壮太を見つめて手を振り返す。
愛美M「結婚、出産、子育てを一緒にすることを考えたら」
愛美M「相応しいのは先輩じゃない。きっと壮ちゃんだ……」
愛美、切なそうな顔をする。
T「10分後」
愛美、大好きなフライドポテトを幸せそうに頬張る。
愛美M「あぁ……、美味しいなぁ」
愛美N「先輩はファーストフードが好きじゃない」
愛美、目を潤めて幸せを噛み締める。
愛美「久々に食べたけど、やっぱり美味しいね」
壮太、微笑みながら愛美を見つめる。
壮太「黒川君とは食べに行かないの?」
愛美、苦笑いする。
愛美「先輩は……」
愛美N「先輩は家で食べることが多い。その理由は……」
(回想)
◯愛美のアパート・リビング(朝)
匠、嫌そうな顔で愛美に言う。
匠「何で休日なのに外行くしかねぇんだよ? めんどくせぇ」
匠、ソファに腰掛けて読書をする。
愛美「たまには外も良いですよ?」
愛美、ニコニコする。
愛美「天気良いし、何か買ってピクニックしましょうよ!」
愛美M「今日は料理サボりたい!」
愛美、目を潤めて匠を見つめる。
匠、本を見つめたまま冷たく言う。
匠「俺は不味いものでカロリー摂取しない主義だ」
匠「そして休日は家で過ごす主義でもある」
愛美、悲しい顔をする。
愛美M「一人で出かけよう」
(回想終了)
〇ショッピングモール・フードコート
愛美「インドア派なので……」
愛美、ハンバーガーを食べる。
愛美M「先輩が食べたら『しょっぱい』て言うだろうな」
愛美、口元にソースがつく。
壮太、クスッと笑う。
壮太「愛美、ソースついてるぞ」
愛美、慌ててティッシュで拭く。
愛美、恥ずかしくて顔を赤らめる。
壮太「可愛いな」
壮太、優しい顔で愛美を見つめる。
愛美M「可愛い……?」
愛美、切ない顔で俯く。
愛美M「壮ちゃんは言ってくれるのに」
愛美M「先輩には言われたことない……」
◯愛美の実家・リビング(夕方)
愛美、耳にリボンをつけた愛犬クーを抱きしめる。
愛美「クーちゃん! ますます可愛くなったねぇ!」
愛美、クーの体に顔を押し当てる。
愛美「いい匂い! 尊いわぁ」
壮太、幸せそうに愛犬と戯れる愛美を見つめる。
由美、壮太に近く。
由美「壮ちゃん、悪いんだけどさ」
由美「クーちゃんのお散歩お願いしてもいい?」
壮太、笑顔で答える。
壮太「もちろんいいですよ!」
愛美「じゃあ私も……」
由美、壮太について行こうとする愛美を引き止める。
由美「あなたはちょっと手伝って!」
愛美、怪訝そうな顔で由美を見つめる。
◯同・和室(夕方)
愛美「お母さん、手伝いって……?」
愛美、和室を見て驚く。
愛美「何で……?」
愛美、素敵な浴衣に見惚れる。
由美、ニコニコする。
由美「お誕生日プレゼント! ちょうど今日は町のお祭りだし!」
愛美M「……先輩のことばっかで忘れてた」
由美、真剣な顔で愛美に近づく。
由美「壮ちゃんが帰ってくる前に変身するわよ!」
愛美、固唾を呑む。
〇愛美の実家近く・舗装された田舎道(夕方)
壮太、クーの散歩をする。
壮太、ヒグラシの鳴き声を聞く。
壮太「切ないな……」
クー、壮太を見上げて甘え鳴きする。
壮太、しゃがんでクーの頭を撫でる。
壮太「クーは良いな。愛美に愛されてる」
クー、壮太を見つめて首を傾げる。
壮太、切ない顔で呟く。
壮太「俺も愛されないよ」
クー、壮太の手をペロペロ舐める。
壮太、クーを抱きしめる。
壮太「ホント可愛い奴だな」
〇同・祭り会場(夜)
壮太、突然立ち止まる。
壮太、浴衣を着た愛美の後姿に見惚れる。
愛美、振り向いて壮太に笑いかける。
愛美「壮ちゃん、早く!」
愛美、子供のようにはしゃいで手招きする。
壮太M「可愛い。好きだ。彼女になって……」
壮太、切ない顔をする。
壮太M「伝えたい言葉が何一つ出てこない……」
愛美、目をキラキラさせながら出店見る。
愛美「じゃがバター! 定番の焼きそばも良いし」
愛美「からあげも食べたい……」
壮太、困った顔をする愛美に微笑む。
壮太「全部食べれば良いんじゃない?」
愛美、驚いた顔をする。
愛美「壮ちゃん、甘すぎるよ!」
愛美「先輩なら……」
愛美、ハッとして黙り込む。
愛美M「壮ちゃんと先輩を比較するなんて最低だ」
壮太「黒川君ならこういう時、何て言うの?」
壮太、愛美の顔を覗き込んで問う。
愛美「たぶん……」
(空想)
匠、嘲笑う。
匠「お前、豚になりてぇのか?」
(空想終了)
〇同・祭り会場(夜)
愛美、嫌悪感に満ちた顔。
愛美M「絶対言うでしょ……」
愛美「デブとか豚とか言って貶されるかな?」
愛美、苦笑いする。
壮太、急に冷たい目、怖い声になる。
壮太「普段からそういうこと言われてるの?」
愛美、壮太を見つめる。
愛美M「怒ってる?」
愛美「そこまで酷いことは……」
壮太「ねぇ愛美、何で同居してるの?」
壮太、真剣な目で愛美を見る。
壮太「付き合ってるの? それとも……」
壮太、上半身裸で腰にタオルを巻いた匠の姿が脳裏に浮かぶ。
壮太「愛美は彼のセフレなの?」
愛美「え……」
愛美、困惑した顔をする。

