〇愛美のアパート・愛美の寝室(夜)
匠、横向きになって寂しそうな顔で愛美を見る。
匠M「本当のことを言うべきか?」
匠、仰向けになって顔の上に腕をのせる。
(回想)
〇ショッピングモール・高級寿司店
匠、値段を気にせずどんどん頼む。
匠「お前は?」
愛美「甘い玉子焼きが食べたいです……」
(回想終了)
〇愛美のアパート・愛美の寝室(夜)
匠M「あれは絶対値段を気にしてた」
匠M「借金のせいで遠慮したんだろう?」
匠、寝返りを打つ。
匠M「せめて好きなプリンを食べさせてやりたくて……」
(回想)
〇ショッピングモール・カフェ
店員「お待たせしました」
店員、プリンパフェを運んでくる。
愛美、目をキラキラさせて笑顔になる。
愛美「すごーい! ありがとうございます」
愛美、笑顔で店員に礼を言う。
匠、愛美を見つめる。
匠M「誰に対しても感謝の気持ちを忘れない」
匠M「純粋で優しい奴なんだよな」
愛美、匠と目が合う。
愛美「パフェ届きましたよ?」
匠「やっぱいらない」
匠M「最初からお前のために頼んだものだから」
愛美「え?」
愛美、優雅にコーヒーを飲む匠を見つめる。
匠「やるよ」
匠M「俺はお前の喜ぶ顔が見たいんだ」
愛美、目がイキイキする。
愛美「本当にいいんですか?」
匠「捨てるのは店員に悪いだろ?」
愛美、念を押すように言う。
愛美「あとで返せとか言わないで下さいね?」
匠、頬杖をついて呆れたように言う。
匠「言わねぇから早く食えよ」
愛美、嬉しそうに大口でプリンを食べる。
愛美、最高の笑顔を見せる。
愛美「先輩! これ、めちゃめちゃ美味しいです!」
匠、微笑む。
匠M「可愛い」
匠「へぇ……」
匠、愛美を見つめる。
匠「じゃあ俺にも一口くれよ?」
匠M「この意味、お前は分かるか?」
愛美、少し口を開けて待つ匠を見つめる。
愛美、緊張した顔でプリンをすくう。
愛美、匠の口にスプーンを運ぶ。
愛美、匠に食べさせるとともに自然と自分の口も開く。
匠、スプーンを咥えて愛美を見つめる。
匠M「はい、間接キス!」
愛美、匠に見つめられて悶絶する。
匠M「本日の行動目標、恋人気分を味わう!」
匠M「見事達成! あとは帰って仕上げだ……」
(回想終了)
〇愛美のアパート・愛美の寝室(夜)
匠、寝付けなくて起き上がる。
匠N「エアコンなんて別に何でも良かった」
匠N「エアコンが無ければ同じ部屋で寝られると思った」
匠、静かにベッドから脚を下す。
匠N「だからアイツが絶対嫌がる最高値のものを欲しがった」
匠、抜き足差し足で愛美に近づく。
匠N「虫嫌いなのも知ってたからゴキブリで脅した」
匠、しゃがんで境界線の一部を剥がして捨てる。
匠M「俺はお前を惚れさせたい」
匠、ニヤッとして愛美の陣地に足を踏み入れる。
匠M「よそ見できなぐらい、俺を好きにさせる」
匠、愛美のすぐ隣に横になる。
匠M「だから覚悟しろ……」
匠、急激に瞼が重くなる。
T「翌朝」
愛美、目が血走っている。
愛美M「眠れなかった……」
匠、愛美を抱き枕のように抱きしめて熟睡する。
愛美、匠を起こさないように寝返りを打って匠を見つめる。
愛美M「先輩、どうしてこんなことするの?」
愛美M「好きじゃないなら、期待させないでよ」
愛美、目を潤めて匠の服にしがみつく。
◯愛美のアパート・リビング(朝)
T「土曜日」
愛美、一泊分の荷物を持ってソファに座る匠に言う。
愛美「じゃあ先輩、明日には帰るんで……」
愛美「前みたいに部屋、散らかさないで下さいよ?」
匠、無言のままそっぽを向く。
愛美M「今日は一段と機嫌が悪い」
愛美「ご飯は作り置きしてあるので、それを食べてください」
匠、黙ったまま愛美を見つめる。
愛美M「捨てられた子犬みたい……」
愛美、後ろ髪を引かれる。
愛美、匠に近づいて床に正座する。
愛美、ソファに腰かける匠の脚に頭をのせる。
愛美「待っててくださいね」
愛美M「先輩は連れて行けない」
匠、無表情で愛美の頭を撫でる。
愛美、匠を見上げる。
愛美M「だって今日は……」
愛美「行ってきます」
愛美、立ち上がって玄関に向かう。
愛美M「私の誕生日でもあるから」
愛美、寂しそうな顔をして玄関の鍵を閉める。
愛美M「自分から言ったらプレゼントねだるみたいで嫌じゃん」
愛美、俯きながら歩く。
愛美M「先輩に金銭的負担をかけたくない」
〇愛美のアパート前駐車場・車内(朝)
壮太、自分の車の運転席から一台の高級外車を見つめる。
壮太M「黒川……。愛美は知らないのか? アイツの秘密を」
壮太M「そもそも何で一緒に住み始めたんだ?」
壮太、眉間にシワを寄せる。
壮太M「何か理由があって脅されてる?」
愛美、助手席の窓から車内を覗いて壮太に笑いかける。
〇愛美のアパート・玄関先(朝)
匠、駐車場の車を見つめる。
匠、愛美が乗車することを確認して誰かに電話を始める。
〇車内(朝)
愛美、助手席に腰かけて運転席の壮太に笑いかける。
愛美「壮ちゃん、ごめんね。ホント助かる!」
壮太「いいよ、俺も実家帰ろうと思ってたし」
壮太「それにクーとも遊びたいし」
壮太、爽やかな笑顔を見せる。
愛美「クーちゃんもきっと喜ぶよ!」
愛美N「それから実家までの道中、話題は尽きず」
愛美N「本当に楽しい時間を過ごした」
〇愛美の実家・玄関先
愛美、驚いた顔をする。
白石由美(49)、困った顔をする。
由美「今ちょうどトリミング行っちゃったのよ」
T「白石由美 49歳 愛美の母」
愛美、困った顔で壮太の顔を見る。
壮太、笑う。
壮太「クーも誕生日だから、おめかしに行ったんだ」
由美、ニコッと笑う。
由美「そうなの! しばらく帰ってこないから」
由美「あなたたちもどこかデート行って来たら?」
愛美、焦ったように言う。
愛美「デートって……」
壮太、ニコニコしながら愛美の肩を抱く。
壮太「ですね。デート行ってきます!」
〇車内
愛美、苦笑いする。
愛美「お母さんがデートなんて言って、ごめんね」
壮太、運転しながら首を傾げる。
壮太「何で謝るの? 俺は嬉しいよ……」
愛美「え?」
愛美、壮太を見つめる。
壮太、満面の笑みで愛美を見る。
壮太「愛美とデートするの、ずっと夢だったから」
愛美、クスッと笑う。
愛美「冗談でしょ? フォローしてくれてありがとね」
壮太、前方を見たまま少し寂しそうな顔をする。
壮太M「ねぇ、俺の気持ち本当に気づいてないの?」
壮太M「俺はずっと前から、愛美のことだけ見てるのに……」
◯ショッピングモール・映画館
愛美、嬉しそうにキャラメルポップコーンを持って歩く。
壮太「躓かないでね?」
愛美「子供じゃないんだから大丈夫だよ!」
愛美、数歩前進して躓く。
愛美「うわっ!」
壮太「危ない!」
壮太、慌てて手を伸ばして愛美を支える。
愛美、何故か匠が脳裏に浮かぶ。
愛美M「先輩ならきっと……」
愛美M「舌打ちして『だから言っただろ!』」
愛美M「って怒るんだろうな……」
壮太、心配そうな顔で愛美の顔を覗き込む。
壮太「ビックリしたね……、怪我してない?」
愛美、頷く。
壮太「危なっかしいな。もう躓くなよ?」
壮太、散らばったポップコーンを見る。
壮太「食べる分、無くなっちゃうぞ?」
壮太、愛美を揶揄うように言ってポップコーンを拾う。
愛美M「壮ちゃんは大人だ……」
愛美、壮太を見つめて頬を赤らめる。
◯同・映画館前
T「3時間後」
壮太、愛美に手を差し出す。
愛美、首を傾げる。
壮太「デートだから手つなぎたい」
壮太、ニコニコ嬉しそうに笑う。
愛美M「先輩ならきっとこんなことしない」
愛美、また脳内で匠と壮太の比較をする。
愛美、はにかみながら手を繋ぐ。
愛美M「壮ちゃんの手、先輩よりゴツゴツしてる……」
(回想)
◯愛美のアパート・愛美の寝室(夜)
愛美、腕枕する匠の腕を両手で触る。
愛美M「先輩の腕。たまらなく好き」
愛美M「血管、前腕の筋、ちょっと生えた産毛も愛おしい」
愛美、匠の手を触る。
愛美M「でも、この大きな手が一番好き」
愛美M「これからこの手でたくさんの命を救うんだね……」
愛美、急に涙ぐむ。
愛美M「私……、いつまで一緒居られる?」
愛美M「あと何回、この手に触れられる?」
愛美、匠の腕に涙がこぼれ落ちる。
愛美M「同居解消になったら、もう触れることも」
愛美、匠の手に顔を近づける。
愛美M「会うことさえできなくなる……」
愛美、匠の手のひらにキスする。
愛美M「好き。誰にも触れないで……」
(回想終了)
愛美、壮太の手を払いのける。
壮太、驚いたように愛美を見る。
愛美、焦ったように嘘をつく。
愛美「ごめん、手汗すごくて恥ずかしくて……」
壮太、ニコッと笑う。
壮太「じゃあ、腕組もうか」
男性、愛美と壮太が腕を組んで歩くところをスマホで撮影する。

