〇愛美のアパート・玄関(夜)
匠、ブツブツ文句を言いながら玄関に向かう。
匠「こんな遅くまでどこほっつき歩いて……」
匠、目を見開いて呆然とする。
宮野壮太(24)、泥酔した愛美をおんぶしている。
壮太、匠の格好(腰にタオルを巻いて上半身裸)に驚き、動揺する。
T「宮野壮太 24歳 薬学部6年 愛美の幼馴染」
壮太「……何で愛美の部屋に?」
壮太M「確かコイツは医学部の……。つか服着ろよ」
匠、顔をしかめる。
匠M「愛美? 何で呼び捨てしてんだ?」
匠、口を開こうとする。
愛美、ヘラヘラ笑いながら壮太にしがみつく。
愛美「壮ちゃん、大好き〜」
壮太「こらこら……」
壮太、苦笑いしながら匠を敵対するように見る。
壮太M「俺はずっと前から愛美を知ってるんだ」
匠、敵意剥き出しの猛獣のように壮太を見る。
匠M「喧嘩売ってんのか、ゴラァ!」
匠、ハッとする。
匠M「これは嫉妬?」
壮太、爽やかな笑顔を見せる。
壮太「すみません……。今日は酷く酔っちゃって」
壮太「今までこんなに酔ったことないんですけど……」
壮太、匠を睨む。
壮太「最近ストレスがすごいみたいで……」
匠、壮太を睨む。
匠M「ストレス? 俺のせいだって言いたいのか?」
匠、作り笑いする。
匠「そうですか……。じゃあ、もっと優しくしないとな」
匠「俺の愛美がご迷惑をおかけして申し訳ないです」
匠M「さっさと失せろ、クソ野郎」
壮太、ニコッとする。
壮太M「俺の愛美? 付き合ってもないくせに」
壮太「愛美、下すよ?」
愛美、目をこすってあくびする。
壮太、愛美をゆっくりフローリングに下して立ち上がる。
愛美、壮太の手を掴んで見上げる。
壮太、しゃがんで愛美の頭を撫でる。
匠、イラっとする。
匠M「ベタベタ触ってんじゃねぇよ!」
壮太「どうした?」
愛美、目を潤めて壮太を見る。
愛美「行っちゃヤダ……」
壮太、匠を見てニヤッとする。
壮太「じゃあ、俺ん家来る?」
匠、ハッとして壮太に近づく。
匠「あとは俺が介抱するんで……」
壮太、匠を見上げる。
壮太M「医学部のトップ。どんなキレ者かと思ったけど……」
壮太M「意外と脆そうだ」
匠、余裕そうな表情の壮太を険しい顔で見下ろす。
愛美、座ったまま眠る。
壮太、立ち上がって真顔で匠を見る。
壮太「良いこと教えてあげます。愛美はね……」
壮太「嘘つきが一番嫌いなんですよ」
匠、唇を噛みしめて壮太から顔を逸らす。
壮太、玄関のドアを開けて去り際に言う。
壮太「彼氏面もほどほどに」
匠、悔しさと怒りが込み上げて壁を殴る。
〇同・愛美の寝室(夜)
匠、ベッドで眠る愛美を見つめる。
(回想)
〇明侑大学付属病院・医学生の休憩室
賢二「大事にしないと誰かに奪われるぞ?」
賢二、不安を煽るように言う。
匠M「はぁ? 誰かって誰だよ?」
賢二「そんなの知らねぇよ。近くで支えてくれる奴とか?」
(回想終了)
〇愛美のアパート・愛美の寝室(夜)
匠、切なそうな顔をする。
匠「誰だよ、アイツ」
匠、すやすや眠る愛美の顔を見つめながら髪に触れる。
匠「お前、ムカつくな……」
匠、愛美の唇を指で撫でる。
匠M「アイツには『大好き』とか言うくせに」
匠、愛美にキスする。
匠、涙目で愛美見つめる。
匠M「何で俺には言わねぇんだよ……」
匠、愛美の隣に横になって抱きしめる。
匠M「もっと俺を好きになれよ」
T「翌朝」
愛美M「暑い……。重……」
愛美、寝苦しくて薄っすら目を開ける。
愛美、耳に匠の吐息がかかる。
愛美M「先輩……? 何でここに?」
愛美、睡魔に負けてまた目を閉じる。
T「30分後」
愛美、匠に腕枕されながら向かい合って眠る。
匠の目覚ましアラームが鳴り響く。
愛美、ハッとして起き上がる。
愛美M「……お弁当!」
愛美、激しい頭痛に襲われ倒れ込む。
愛美M「頭痛い……」
愛美、アラームを気にせず眠り続ける匠の寝顔を見つめる。
愛美M「夢、じゃないよね?」
愛美M「早く起こさないと……」
愛美、匠のアラームを勝手に停止する。
愛美M「好きな顔が目の前にあるなんて、役得だ……」
愛美、匠に背を向けて血管隆々の匠の腕に触れる。
愛美M「いい弾力。採血しやすそう」
愛美、匠の手のひらを見つめる。
愛美M「大きな手、長い指」
愛美、匠の指に自分の指を絡める。
愛美M「カップルみたい」
愛美、嬉しそうに頬笑む。
愛美、頭痛により我に返る。
愛美M「私はバカか!」
愛美、起き上がる。
愛美M「早く離れないと」
愛美、ベッドから脚を下す。
愛美M「好きになっちゃダメなんだって」
匠、寝言を発する。
愛美、それを聞いて切ない顔で部屋を出ていく。
愛美M「そんな言葉、何の覚悟があって言うの?」
〇明侑大学付属病院・医学生の休憩室
匠、コンビニ弁当に手を付けずにテーブルに突っ伏す。
賢二、匠の隣で手作り弁当を涙を流しながら頬張る。
賢二「美味い……、美味すぎる!」
匠、恨めしそうな顔で賢二の方を見る。
高梨誠也(24)、野菜ジュース飲みながら賢二の弁当を見つめる。
誠也「手作り弁当なんて珍しいな」
T「高梨誠也 24歳 医学部6年 匠の同期」
賢二、前のめりで誠也に話す。
賢二「匠の愛妻弁当を見てたら、うらやましくてさ……」
賢二、デレデレしながら話す。
賢二「彼女に土下座して作ってもらったんだ」
誠也、苦笑いする。
誠也M「弁当作ってもらうのに土下座って……」
匠「お前、いつから彼女居たんだよ?」
賢二、幸せそうにお弁当を頬張る。
賢二「え? 何か言った?」
匠、呆れ顔で言う。
匠「……幸せな奴だな」
賢二、笑いながら言う。
賢二「幸せはな、誰かに決められるもんじゃない」
賢二、胸に手を当てる。
賢二「自分で感じるもんなんだよ!」
匠と誠也、どこか冷めた感じで賢二を見る。
賢二、匠に熱い視線を向ける。
賢二「誰と居る時がお前は一番幸せなんだ?」
賢二「その人のために命賭けてみろ。人生、変わるぞ」
匠、切なそうに俯く。
匠M「俺だけがアイツを好きだったら、虚しすぎる……」
〇明侑大学・食堂
T「一方、その頃」
彩「でね、どうしてもって言うからさ……」
彩、手作り弁当の蓋を開けて愛美に見せる。
彩「見て! 冷食の茶色ばっか!」
愛美「確かに茶色の割合が多い……」
彩、大笑いする。
彩「こんな手抜きでも大喜びしちゃってさ」
彩、少し頬を赤らめながら髪を耳にかける。
彩「可愛いから、また作ってあげようと思う」
愛美、目を潤めながら微笑む。
愛美M「恋してる彩、可愛い」
愛美M「私も素敵な恋したいな……」
愛美、脳裏に匠の顔をが浮かぶ。
愛美M「いやいや、あなたじゃないってば!」
愛美、切なそうな顔をする。
〇明侑大学付属病院・中庭
愛美、木に隠れてキョロキョロ見渡す。
愛美M「大学抜け出してまで来るなんてバカだ……」
愛美、顔を横に振る。
愛美M「違う。私はプリンを買いに来ただけ!」
愛美、口を尖らせる。
愛美M「白衣姿が見たくて来たわけじゃない」
愛美、急に虚しさを感じて俯く。
愛美M「……帰ろ」
愛美、振り向くとドクターコートを羽織った匠が窓越しから見ている。
愛美、咄嗟に手で顔を隠す。
愛美M「ヤバッ! 見つかった……」
愛美、忍者のように隠れながら院内に入る。
愛美、周囲に匠が居ないことを確認してホッとする。
愛美M「何もなかった。大丈夫だ!」
愛美、数歩前進する。
匠「よお!」
愛美、一瞬にして余裕のない顔になる。
匠「こんな所に何の用だ?」
愛美、困った顔で声が聞こえた方を見る。
愛美M「どうしよう……」
匠、腕を組みながら壁に寄りかかっている。
愛美M「……カッコよすぎる」
匠、少し屈んで愛美に顔を近づける。
匠「おい、聞いてんのか?」
愛美、困った顔で答える。
愛美「プリンを買いに……」
匠「へぇ、わざわざ病院まで?」
愛美、目を潤めて頷く。
匠「大学のカフェでも買えるのに?」
愛美、泣きそうな顔で見つめる。
愛美M「もうそれ以上、問い詰めないで」
匠、ニヤッとする。
匠M「お前がここまで来るほど俺を好きだとは知らなかった」
匠、愛美に手を伸ばす。

