〇愛美のアパート近く・コンビニ前(夜)
愛美、袋を手にして夜道を歩く
愛美M「最悪な日だった」
愛美、袋の中のコンビニスイーツを見て笑顔になる。
愛美M「これ以上悪いことは起きないよね?」
愛美、幸せそうな顔をする。
愛美M「本気になる前に本性知れたし」
愛美M「あんな性悪男に惚れたら大変……」
愛美、突然足を止める。
(回想)
〇愛美のアパート近く・喫茶店前(夕方)
美香「使えない男! 顔しか取柄ないくせに!」
愛美、暴言を吐く美香を見つめる。
美香「アンタがここまで大きくなったのは誰のお陰?」
匠、悔しそうな表情で黙ったまま美香を睨む。
美香「私が生んであげたお陰でしょ?」
美香「そんな女に貢ぐ暇があったら、私に恩返ししなさいよ!」
美香、匠に思いっきりビンタする。
匠、心を失ったように無表情となる。
美香、匠の顔にそっと触れる。
美香「私の可愛いたくちゃん。お母さんを助けて?」
美香、急に匠に優しくする。
(回想終了)
〇愛美のアパート近く・コンビニ前(夜)
愛美M「ずっとDVされてきたの?」
愛美、ハッとして首を横に振る。
愛美M「私には関係ない……」
愛美、歩きながらまた自然と匠のことを考える。
(回想)
〇愛美のアパート近く・喫茶店前(夕方)
美香、ニヤッとして言う。
美香「500万」
匠、黙ったまま美香を睨む。
愛美、つい心の声が漏れる。
愛美「500万?」
愛美M「学生に返せるわけないじゃん!」
美香、甘えるように匠の胸元を指で撫でる。
美香「たくちゃんなら、返してくれるよね?」
愛美、焦ったように言う。
愛美「そんなの無理です!」
美香、舌打ちして愛美を睨みつける。
美香「お前は、うるさいんだよ!」
美香、突然愛美の髪を鷲掴みして引っ張り上げる。
愛美「痛いッ!」
匠、美香の手を払いのけて愛美を力強く抱きしめる。
愛美、恐怖で身体を震わせる。
愛美「この人……、怖い」
匠、美香を睨みつける。
匠「返してやるよ。だから……」
美香「だから?」
美香、腕を組んで匠を見上げる。
匠「二度と俺らの前に現れるな!」
(回想終了)
〇愛美のアパート近く・コンビニ前(夜)
愛美、俯きながら歩く。
愛美M「あんな約束して良かったのかな?」
愛美、顎に手を当てる。
愛美M「あんな毒親なら居ない方が良いのか……」
愛美、困った顔をする。
愛美M「どうやってお金返す気なの?」
愛美、路地裏から出てくる数人の男性に目がいく。
男性①「見ろよ、コレ。高値で売るぞ」
男性①、仲間に腕時計を見せる。
愛美、男性が持っていた腕時計を見て眉間にシワを寄せる。
男性②「おぉ! やっぱ金持ちは良いよな」
男性③「早くそれ売って飯食いに行こうぜ!」
愛美、立ち止まって路地裏を見つめる。
愛美N「そっちに行くな! 心の中でもう一人の私が叫ぶ」
愛美、真っ暗で先の見えない路地裏を見つめる。
愛美N「でも、どうしようもなく気になってしまった」
愛美「もしかして……」
愛美、裏路地に向かって迷いなく歩き出す。
〇愛美のアパート近く・路地裏(夜)
愛美、誰かが地べたに座り込んでいるのを見つける。
愛美M「酔っ払い?」
愛美、屈んで声をかける。
愛美「大丈夫ですか……?」
匠、血の付いた手を伸ばす。
愛美、ビクッとする。
愛美M「……血? 早く処置しないと!」
愛美「きゅっ……、救急車呼びますね」
愛美、バッグからスマホを取り出そうとする。
匠、かすれた声で名前を呟く。
匠「愛美……」
愛美「……!」
愛美、驚いた顔で手を止める。
〇愛美のアパート・リビング(夜)
愛美、匠の口元に絆創膏を貼る。
愛美「あぁ、せっかくのお顔が……」
愛美、顔中が絆創膏だらけの匠を見て思わず笑いだす。
匠「笑ってんじゃねぇよ!」
匠、不機嫌。
愛美、傷だらけの匠を見つめる。
愛美「被害届出さなくて良いんですか?」
匠、愛美から顔を逸らす。
匠「別にいい……」
愛美、悲しい顔で匠を見つめる。
愛美「これじゃ……、やられ損ですよ」
匠、苛立ったように愛美に言う。
匠「しつけぇな」
愛美、しゅんとして俯く。
愛美M「心配してるのに。でも……」
愛美「生きてて良かったです」
愛美、匠に微笑む。
匠「俺が死んだって誰も困らない……」
愛美、匠の傷口を軽く叩く。
匠「いって! 何すんだよ?」
匠、愛美を睨む。
愛美、怖い顔をする。
愛美「これから医者になる人が、何ふざけたこと言ってるんですか?」
匠「医者なんか向いてない……」
匠M「親の敷いたレールを辿ってきただけの俺なんか」
匠M「何の価値もないんだ……」
匠、涙ぐむ。
愛美N「何であんなことしたんだろう?」
愛美、匠を抱きしめる。
愛美N「ただ、彼に生きていてほしいと思った」
愛美、匠の頭を優しく撫でる。
愛美「生きてよ」
匠、ハッとした顔。
愛美「医者として、たくさんの命を救ってください」
愛美「先輩ならきっと立派な医者になれます」
匠、涙を流しながら愛美の背中に腕を回す。
〇愛美のアパート・リビング(夜)
T「現在」
匠、しかめっ面で綺麗になった部屋のソファに腰かける。
愛美、床に正座させられて不満そうな顔。
愛美「あんな所にサングラスなんか置いておくから……」
匠、脚を組んで偉そうに愛美を見下ろす。
匠「先ずは謝罪だろ?」
愛美、唇を噛みしめる。
愛美「すみませんでした……」
愛美M「何で私が謝るしかないのよ」
愛美、不貞腐れたように頬を膨らませる。
愛美N「借金完成のために同居に至った訳ですが……」
匠、愛美の両頬を片手で挟む。
匠「不満そうだな?」
愛美M「当たり前でしょ! 私は悪くないんだから」
愛美M「って言えたらいいのに……」
愛美、匠の顔を見つめる。
愛美M「性悪のイケメンは犯罪者同然だよ」
愛美、反省した顔をする。
愛美「私が悪かったです。弁償します……」
愛美N「私たちの同居はトラブルの連続なのです」
匠、微笑む。
匠「別に弁償なんかしなくていい」
愛美、匠を見つめてキュンとする。
愛美M「怒ってると思ったら笑ったり」
愛美M「つかみどころのない人」
愛美、頬を赤らめて顔を逸らす。
〇同・キッチン(夜)
愛美、冷蔵庫から野菜を取り出して手際よく処理する。
愛美N「この同居には、いくつか条件がある」
愛美、沸騰した鍋にパスタを入れる。
愛美N「借金完済したら同居解消」
匠、寂しそうな顔で愛美の背中を見つめる。
愛美N「どちらかに恋人ができたら同居解消」
愛美N「同居していることは絶対秘密」
匠、おとなしくソファに寝転がって食事が出てくるのを待つ。
愛美N「そして一番大事なこと」
愛美、切なそうな顔をする。
(回想)
〇愛美のアパート・リビング(夜)
T「半年前」
愛美、傷だらけの匠を見つめる。
愛美「私も手伝います。だから二人で借金返しましょ!」
匠、顔を逸らす。
匠「女なんか信じらんねぇ」
愛美「そうですか……」
愛美M「私、何言ってんの! 恥ずかしい」
匠、真顔で愛美を見つめる。
匠「でも同居すれば家賃代が浮くし、悪くないかもな……」
匠、頬を赤らめながら頭を掻く。
愛美M「そんな可愛い顔もするんだ……」
愛美、思わず俯く。
匠、愛美の顔を覗き込んで言う。
匠「面倒だから、俺のこと好きになんなよ?」
愛美、鼓動が速くなる。
愛美、匠から顔を逸らす。
愛美「そんなことあり得ません!」
匠、ニコニコしながら愛美をからかうように言う。
匠「俺、モテちゃうからさ」
愛美「私は他の女子と違うんで……」
愛美M「先輩と釣り合わないことぐらい分かってます」
匠、顔を逸らしたままの愛美を見つめる。
匠「愛美」
愛美M「そういえば、何で名前知ってるの?」
愛美、ゆっくり匠の方に顔を向ける。
匠、愛美にキスをする。
愛美、目を見開く。
(回想終了)
〇愛美のアパート・キッチン
愛美N「この同居の最重要条件、それは……」
愛美、真顔で沸騰する鍋を見つめる。

