〇明侑大学・キャンパス前道路
愛美、急いで走る。
壮太、愛美の前で停車させる。
愛美、不安そうな顔で立ち止まる。
愛美M「どうしよう……」
愛美、困惑した顔。
壮太、愛美を見て慌てるように言う。
壮太「早く乗って!」
愛美「でも……」
愛美、ためらう。
壮太、寂しそうな顔をする。
壮太「お詫びがしたい。最後ぐらいカッコつけさせてよ?」
〇車内
愛美、緊張した面持ち。
壮太、反省するように自白する。
壮太「彼から愛美の記憶だけを消すよう指示したのは龍一氏だ」
愛美、驚いた顔で壮太を見る。
愛美「何の話?」
壮太、申し訳なさそうな顔で言う。
壮太「数年前に会長から記憶を消す薬を作ってほしいと密かに依頼されていた」
愛美、両手で口を押える。
愛美「え……」
壮太「眠っている間に嫌なことだけを忘れられる夢のような機械」
壮太「会長は、そんな未来的な製品を望んでおられた」
愛美、言葉を失って壮太を見つめる。
壮太「当初はそんな薬は作れないって断ってた。でも……」
壮太「愛美が彼と関わるようになってから俺は嫉妬して」
壮太「薬を開発することに躍起になった」
壮太、涙ぐみながら前を見続ける。
愛美、悲しい顔で壮太を見つめる。
愛美「壮ちゃん……」
壮太、唇を噛みしめる。
壮太「薬を使って人の気持ちを自分に向けようとするなんてバカだろ……」
〇お見合い会場・エントランス
壮太、車を停める。
愛美「壮ちゃん……」
壮太、ハンドルに突っ伏す。
壮太「早く行けよ」
愛美、シートベルトを外す。
愛美、覚悟したように壮太に言う。
愛美「話してくれてありがとう。壮ちゃんはやっぱりすごいよ」
壮太、眉間にシワを寄せて愛美を見つめる。
愛美「壮ちゃんなら夢のような薬、いっぱい作れるよ」
愛美「人の命を救うために薬を作って!」
壮太「愛美……」
愛美、微笑む。
壮太、涙ながらに頷く。
愛美「私、行くね」
愛美、目を潤めて車を降りて急ぎ足で中に進んでいく。
愛美、スーツ姿の匠を見てハッとする。
愛美M「居た」
愛美、笑顔で歩く匠の隣には着物姿の一宮舞子(23)が居る。
愛美M「嫌だ。結婚しちゃ嫌だよ……」
愛美、思わず大きな声を出す。
愛美「その結婚、反対です!」
匠、ギョッとした顔で愛美を見つめる。
龍一、迷惑そうな顔をする。
舞子、首を傾げて愛美を見つめる。
愛美、真剣な表情で匠の元に近づく。
愛美、匠の目の前で立ち止まる。
愛美、震える手を握って匠にハッキリと言う。
愛美「私、先輩のことが好きです。だから結婚なんかしないでください」
匠、数秒黙ったまま愛美を見つめる。
愛美、不安な顔をする。
愛美M「何か言ってよ……」
舞子「可愛い」
舞子、クスクス笑う。
T「一宮舞子 23歳 一宮薬品株式会社の令嬢」
愛美、真剣な顔で舞子を見る。
愛美「匠さんとの結婚は、取りやめていただけませんか?」
舞子、ニコニコする。
愛美M「何でそんな笑ってるの? 私をバカにしてる?」
舞子「私たち結婚はしませんよ?」
愛美「え?」
愛美、拍子抜けする。
舞子「だって私……」
舞子、車の近くに居る壮太を発見する。
舞子、思わず着物姿で走り出す。
執事「お嬢様! お待ちください!」
執事、舞子の後を追う。
愛美、舞子が壮太と話すところを見つめる。
愛美、首を傾げる。
愛美M「どういうこと?」
匠、そっと愛美の隣に立って耳打ちする。
匠「医者より薬剤師が好きらしいよ」
愛美、顔を赤らめて匠を見つめる。
匠、ニコッとする。
愛美、ハッとして龍一に近づく。
愛美、真剣な顔で龍一に言う。
愛美「私……、匠さんから離れることはできません」
龍一、ため息をつく。
匠、愛美の肩を抱いて龍一に言う。
匠「結局、先方と契約成立したんだから問題ないだろ?」
龍一、俯いて一瞬微笑む。
龍一、顔を上げると真顔になる。
龍一、去り際に愛美に言う。
龍一「今度はちゃんと、ご両親の報告しなさい」
愛美、驚いたように龍一を見上げる。
龍一、匠を睨む。
龍一「責任を負うことを忘れるな」
匠、愛美の肩を抱く手に力が入る。
匠「前から覚悟はできてる」
龍一、少し口元が緩む。
龍一、颯爽と歩いていく。
愛美、龍一の背中を見つめる。
愛美M「親子揃って不器用だな……」
愛美、クスッと笑う。
匠、愛美の頬をつねる。
愛美「いはい……」
匠、そのまま愛美にキスする。
匠、真剣な表情で愛美に言う。
匠「行くぞ」
愛美「ん?」
〇愛美の実家・リビング(夕方)
譲、怖い顔で腕を組んでソファに腰かける。
譲M「コイツが愛美を泣かした浮気男か」
譲、匠を睨む。
譲M「絶対に許さん!」
愛美、困惑した顔で譲を見つめる。
愛美M「どうしよう……、めちゃめちゃ怒ってる」
愛美、不安そうに匠を見る。
匠、さすがに緊張した表情。
由美、お茶を運ぶ。
由美M「この人が浮気御曹司?」
由美、微笑む。
由美M「すっごいイケメン!」
由美、穏やかな声で話す。
由美「どうぞおかけください」
匠、フローリングに正座する。
譲、思ってもいなかった行動に動揺する。
譲M「そこに座る⁉ 君、御曹司だろ? あの父親とは全然違う……」
愛美、口元に手を当てて呆然とする。
愛美M「俺様な先輩が……」
匠「先ず、愛美さんを傷つけたことをお詫び申し上げます」
譲、脚が震え始める。
由美M「あら、坊ちゃんなのにまともね……」
匠「大変、申し訳ございませんでした」
匠、土下座する。
愛美、涙ぐむ。
愛美M「先輩、そんなことしないで」
愛美、匠に手を伸ばしながらしゃがむ。
愛美「先輩!」
譲、愛美より速く匠の肩に触れる。
愛美「え?」
愛美、きょとんとしたように譲を見る。
譲、大泣きしている。
譲「もう誠意は十分伝わってきたので、どうか頭を上げてください」
T「数時間後」
譲、泥酔してソファで眠り始める。
由美「みっともない姿を見せて、ごめんなさいね」
匠、苦笑いする。
愛美、クーを抱っこしながら窓越しに夜空を見つめる。
愛美M「良かった……」
愛美、クーを撫でながら微笑む。
匠、愛美の後ろ姿を見つめる。
由美「この辺、星がとっても綺麗なのよ!」
由美、匠を見つめてニコッと笑う。
〇愛美の実家近く・田舎道(夜)
匠、愛美と手を繋いで星空を見ながら歩く。
匠「こんな星空、都会じゃ見られないな」
匠、感動したように目を輝かせる。
愛美「そうですね……」
冷たい風が吹く。
匠、くしゃみをする。
匠「寒すぎる……」
匠、愛美を見つめる。
愛美「もう帰りましょうか」
愛美、向きを変えて帰ろうとする。
匠、愛美からマフラーを奪い取る。
愛美「ちょっと! 私が寒くなるじゃないですか!」
匠「何とか風邪ひかないって言うだろ?」
愛美、頬を膨らませて匠を睨む。
愛美M「やっぱり嫌な人」
匠、ジャケットの内ポケットから小さな箱を取り出す。
愛美、匠に背を向けたまま考える。
愛美M「私は先輩とうまくやっていけるんだろうか?」
匠、愛美にネックレスをつける。
愛美「え?」
愛美、ネックレスを見てハッとする。
愛美「これ……」
(回想)
〇ショッピングモール・ジュエリーショップ前の通路
愛美、横にあるジュエリーショップのネックレスを見つめる。
愛美M「綺麗……」
愛美、悲しそうな顔をする。
愛美M「私には勿体ない……」
(回想終了)
愛美、涙ぐむ。
愛美「あの時の……、覚えててくれたんだ……」
匠、バックハグする。
匠「本当は、誕生日当日に渡す予定だったんだ」
匠「22歳、おめでとう」
愛美「ありがとう……」
愛美、目いっぱいに涙を溜める。
匠、愛美の頭を撫でる。
匠「来年も再来年も、これからずっと」
匠「誕生日を一緒に過ごす。約束する」
愛美M「先輩となら、私は一生幸せだ」
愛美、涙を流しながら頷く。
〇新居・リビング(早朝)
T「春」
匠、愛美アパートから持ってきた愛用のソファに腰かけながら脚を組む。
匠、大きな窓から見える景色を楽しみながらコーヒーを飲む。
匠M「最高だな」
愛美N「昨年末、彼の24歳の誕生日」
愛美、慌ただしく動き回る。
愛美N「私はたちは初めて……」
○新居・寝室(早朝)
愛美、ダブルベッドを見つめて顔を赤らめる。
愛美N「味わったことのない幸福感を得た」
愛美、ベッドに仰向けになって目をつぶる。
愛美N「甘く、激しく、深く愛されて」
愛美、自分の胸に触れる。
愛美N「ずっとこの時間が続けば良いって思った」
愛美、物欲しそうな声。
愛美「匠くん……」
匠、愛美の上に覆い被さり、局所を執拗に押し当てる。
愛美、驚いて目を開ける。
匠、愛美の耳元で話す。
匠「愛美……、今すげぇエロい顔してる」
匠「そんなに俺が欲しい?」
愛美、匠の膨らんだ局所が股付近に当たる。
愛美、赤面する。
愛美「ねぇ、わざとしてるでしょ?」
匠、クスッと笑いながら親指で愛美の口を少し開ける。
匠「当たり前だろ? 俺がどんだけ愛してるか」
匠「まだまだ分かってねぇんだよ」
匠、耳打ちする。
匠「早く結婚して、俺の子を産んで欲しい」
愛美、嬉し泣きする。
〇結婚式場・チャペル前
彩、快晴の元でブーケトスする。
愛美N「彩と賢二くんは結婚して」
愛美、目を見開く。
参加者全員で青空の元、記念撮影する。
愛美、大泣きしながら友人代表挨拶をする。
彩、愛美につられて大泣きする。
賢二、苦笑いしながら彩の背中を摩る。
匠、微笑みながら愛美を見つめる。
〇ショッピングモール・ベビーショップ
T「数ヶ月後」
愛美、匠と笑い合いながらギフトを選ぶ。
愛美N「彩には新しい命が宿った」
愛美、ギフトの熨斗に連名で書かれた名前を見つめる。
愛美N「そして私は、黒川愛美になった」
〇同・ジュエリー店前
愛美、買ったギフトを嬉しそうに持ち歩く。
匠、立ち止まって指輪を見つめる。
愛美「どうしたの?」
匠、顎に手を当てて考える。
匠「そろそろ新しい虫よけが必要だろ……」
愛美、首を傾げる。
愛美「もうじき蚊が出る季節だもんね……」
愛美「じゃあドラックストア行こうよ」
匠、呆れ顔で愛美を見る。
匠、間抜け面の愛美を見て揶揄うように言う。
匠「お前ってバカだよなぁ。俺は心配だよ、色々と……」
愛美、赤面して頬を膨らませながら上目遣い。
匠、愛美の頭を撫でる。
愛美M「ホント意地悪で嫌な人。でもこの手……」
愛美「大好き」
愛美、幸せそうに笑う。
〇新居・玄関
下駄箱上に彩から受け取ったブーケと結婚式の写真が飾られている。
完

