並んで歩くその距離は、昼間よりも少しだけ近い。
街灯の光が二人の影を長く伸ばし、夜風がそっと頬を撫でる。
彼の肩の力が抜けた笑顔に、私はほんの少し胸を高鳴らせていた。
肩が触れるわけじゃないけど、心の距離が、ぐっと縮まっているような気がした。
「なんか、静かやな」
ふいに彼がつぶやいた。
「そうですね」
私も、声を落として返す。
それだけでも、心の奥の温度がまた少し上がるのがわかる。
言葉にしない静けさが、ふたりの間に自然に溶け込んでいく。
目の前に続く舗道が、どこか特別な景色のように感じられる。
昼間の喧騒も、仕事の張り詰めた空気も、今はすっかり遠ざかっていて、
聞こえてくるのは、自分たちの歩幅の音だけ。
すれ違う人もほとんどいない。
ビルの窓に映る街灯の明かりが、静かに揺れている。
彼はときどきスマホをちらりと見ながら、何も言わず歩いていたけれど、
その無言の時間すら、不思議と心地よかった。
ふと、彼が小さくあくびをした。
それがあまりにも自然で、肩の力が抜けて、私は思わず笑ってしまった。
「…眠そうですね」
「そやな、ちょっとだけな」
そう言って、少しだけこちらに顔を向ける。
目元が、ほんのりと緩んでいた。
いつの間にか、ずっとこの時間が続けばいいのに、なんて思っていた。
この人と歩く夜道が、こんなにも穏やかで、あたたかいなんて。
ほんの数時間前までは想像もしていなかったはずなのに。
交差点を一つ越え、見慣れた道が近づいてくると、少しだけ名残惜しくなった。
終わりが近づいている気配に、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「……今日は、ありがとうございました」
思いがこぼれるようにして出たその言葉に、
彼はふいに足を止めて、いたずらっぽく目を細めた。
「姫、今日は楽しめましたか?」
わざとらしく丁寧な口調で、片手を優雅に差し出してくる。
その仕草に思わず笑ってしまいそうになるけど、
私は少し戸惑いながらも、そっとその手に自分の手を重ねた。
すると彼は、その手をひょいと持ち上げて、
演技じみた所作で、手の甲にゆっくりと唇を近づける。
ふわりと、軽く。
でも確かに、そこに彼の唇の感触が触れた。
「姫を送れて、光栄です」
芝居がかった声色に、思わず頬が熱くなる。
「もう……なにそれ……」
恥ずかしさをごまかすように、笑い混じりで言うと、
彼はくすっと喉の奥で笑って、いつもの声に戻る。
「ほら、王子様は姫を守らなあかんやろ?」
軽く肩をすくめるその目は、茶目っ気とやさしさに満ちていた。
「また明日な」
そう言って、ゆっくりと背を向けて歩き出す。
その後ろ姿を見つめながら、私は手の甲に残る温度を、そっと片手で包み込んだ。
鼓動が、さっきよりも少しだけ早くなっているのがわかる。
それでも、不思議と心の奥はやさしく満たされていた。
街灯の光が二人の影を長く伸ばし、夜風がそっと頬を撫でる。
彼の肩の力が抜けた笑顔に、私はほんの少し胸を高鳴らせていた。
肩が触れるわけじゃないけど、心の距離が、ぐっと縮まっているような気がした。
「なんか、静かやな」
ふいに彼がつぶやいた。
「そうですね」
私も、声を落として返す。
それだけでも、心の奥の温度がまた少し上がるのがわかる。
言葉にしない静けさが、ふたりの間に自然に溶け込んでいく。
目の前に続く舗道が、どこか特別な景色のように感じられる。
昼間の喧騒も、仕事の張り詰めた空気も、今はすっかり遠ざかっていて、
聞こえてくるのは、自分たちの歩幅の音だけ。
すれ違う人もほとんどいない。
ビルの窓に映る街灯の明かりが、静かに揺れている。
彼はときどきスマホをちらりと見ながら、何も言わず歩いていたけれど、
その無言の時間すら、不思議と心地よかった。
ふと、彼が小さくあくびをした。
それがあまりにも自然で、肩の力が抜けて、私は思わず笑ってしまった。
「…眠そうですね」
「そやな、ちょっとだけな」
そう言って、少しだけこちらに顔を向ける。
目元が、ほんのりと緩んでいた。
いつの間にか、ずっとこの時間が続けばいいのに、なんて思っていた。
この人と歩く夜道が、こんなにも穏やかで、あたたかいなんて。
ほんの数時間前までは想像もしていなかったはずなのに。
交差点を一つ越え、見慣れた道が近づいてくると、少しだけ名残惜しくなった。
終わりが近づいている気配に、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「……今日は、ありがとうございました」
思いがこぼれるようにして出たその言葉に、
彼はふいに足を止めて、いたずらっぽく目を細めた。
「姫、今日は楽しめましたか?」
わざとらしく丁寧な口調で、片手を優雅に差し出してくる。
その仕草に思わず笑ってしまいそうになるけど、
私は少し戸惑いながらも、そっとその手に自分の手を重ねた。
すると彼は、その手をひょいと持ち上げて、
演技じみた所作で、手の甲にゆっくりと唇を近づける。
ふわりと、軽く。
でも確かに、そこに彼の唇の感触が触れた。
「姫を送れて、光栄です」
芝居がかった声色に、思わず頬が熱くなる。
「もう……なにそれ……」
恥ずかしさをごまかすように、笑い混じりで言うと、
彼はくすっと喉の奥で笑って、いつもの声に戻る。
「ほら、王子様は姫を守らなあかんやろ?」
軽く肩をすくめるその目は、茶目っ気とやさしさに満ちていた。
「また明日な」
そう言って、ゆっくりと背を向けて歩き出す。
その後ろ姿を見つめながら、私は手の甲に残る温度を、そっと片手で包み込んだ。
鼓動が、さっきよりも少しだけ早くなっているのがわかる。
それでも、不思議と心の奥はやさしく満たされていた。



