「嫌いなわけないじゃん」
じっと千晴を見つめて、本音を口にする。
「だから厄介なの」
そして困ったように眉を下げた。
千晴のことが、私は好きだ。
私が元々知っていた推しに抱いていた〝好き〟という感情と、今、千晴に抱いているこの感情。
二つの感情は似ているようで、全然違うものだった。
だから最初は、千晴に抱くこの感情がなんなのかよくわからなかった。
だが、あの雨の日。
千晴に想いを伝えられて、やっと好きという気持ちの本質がわかったのだ。
暖かい気持ちだけではない。
好きすぎて、胸が締め付けられる。
熱くて、甘くて、焦がれて、それでいて、苦しい。
それが恋であり、愛だ。
そう今はわかっていても、私はそれを千晴に言うつもりはなかった。
私は千晴を一度、振っている身だ。
そんな私が千晴に想いを伝える権利などないし、そもそも千晴のことを想っていることは事実だが、付き合いたいとまでは今は思わない。
それに私は昨日まで、悠里くんのことが推しとしてだが確かに好きで、悠里くんと付き合っていた。
今、千晴と付き合う選択をするということは、千晴と付き合う為に、悠里くんと別れたみたいで嫌なのだ。
なので、今はただこの感情を胸の奥底で感じるだけで十分だった。
千晴から視線を逸らし、校庭内へと視線を向ける。
暖かく焦がれる感情、やっと知ることのできた恋心を胸に、ただ私は歩みを進めた。
ーーーーその時。
私の耳に千晴の甘く、悩ましげな声が届いた。



