「どしたのよ?」

「いや、なんもないです」


そう言うと塩谷君はモチを降ろすと、玄関から見えているリビングのソファーを指差した。

「その辺座っててください。飲み物入れてきます」

「手伝うよ」

「大丈夫ですよ、望月先輩は何にします? コーヒーか紅茶があります」

「塩谷君と同じミルクティーでいいよ。私も好きだから」

「了解です」


私がミルクティーでと返事をしたのは、いつも社内で塩谷君が飲んでいるのは決まってミルクティーだからだ。

「実は俺、ミルクティー飲もうとしたら牛乳切らしてて、それでコンビニ行ったんですよ」

「なるほど。で、私を見かけたんだ」

「そういうことですね」


塩谷君はコンビニ袋から食パンと牛乳を取り出しながら、ポットでお湯を沸かし始める。

私はソファーに腰掛けると部屋の中をぐるりと見渡す。1DKの部屋は綺麗に片付けられていて、ブラウンの家具で統一されている。

「仕事もきっちりだけど、掃除もちゃんとしてるのね」

「てことは、先輩ん家は散らり放題ってことですか?」

「失礼ね。多少は散らかってるけど、塩谷君が思ってるより綺麗だからね」

「そういうことにしときましょうか」

「ええ、どうぞ」

塩谷君がケラケラ笑うのを見ながら、私はソファーの横の寝床で丸くなっているモチの額をそっと撫でる。

モチは人懐っこく、初めて会ったにも関わらず髭を手に擦り付けるようにして甘えてくる。