「怒らせちゃいました?」
「大人なので全然っ、お気になさらず」
「あはは。やっといつもの先輩っぽくなってきましたね。その調子です」
(あ……)
くったくのない笑顔を見せる塩谷君に、この会話のやり取りも彼なりの気遣いなのだと遅れて気づく。
(……ほんと気がきく後輩よね)
塩谷君の優しさが私のくすんで重く沈んだ心を少し軽くする。
「てことで、行き先、避難所でいいすか?」
少し遠慮がちに、そして私の気持ちを最大限に考慮しながら尋ねてくれる塩谷君に私は頷いた。
このまま二時間、暗い顔して時折涙しながら家路に向かうよりも、今夜は気兼ねがない誰かと一緒に居たい。
「じゃあ、お言葉に甘えて猫ちゃん見せて貰おうかな」
「はい。そこの道曲がった先がもうアパートなんで。うちの子、めっちゃ可愛いですよ」
そう言って切長の目を細める塩谷君に私もようやく笑みを返した。



