「なんかありました? てかありましたよね、その顔」

「あー……悪いけどだいぶ今メンタル弱ってんの。とりあえず歩いて帰るから、見なかったことにして、それじゃあ……」

言い逃げしてスピードを上げて歩き出した私を、すぐに塩谷君が追ってくる。

「ちょっと待ってください」

「ついてこないで」

「そんなことできるわけないですよね」

足の長い塩谷君があっという間に私の隣に並ぶ。

「明らか様子おかしい先輩をこのまま徒歩で帰らせてなんかあったら、俺、普通に責任感じます」

「いいよ、責任感じなくても。私も大人だし、ちゃんと気をつけて帰るから」


私の突き放すような言い方に塩谷君が、小さくため息を吐くと眼鏡をクイッと押した。

塩谷君が困ったときにする癖だ。


「あのー、おせっかいですけど……高森さんとなんかありました」

「えっ……なんで知ってんの?!」

思わず足を止めた私を見ながら、塩谷君が気まずそうな顔をする。

「俺、この近くのアパートに住んでんすけど、随分前にお二人が親しげに歩いてるの見たことあったんで。あ、勿論、誰にも言ってないすけど」

「……そう、だったんだ」


私はふいにこみ上げてきそうになる涙を必死で堪える。

「でも今日でお別れだから」