深夜1時のミルクティー

モチがうんと伸びをすると、可愛らしい声でひと鳴きしてから私たちのいる台所にやってきてご飯をせがむ。

「お、ちょっと待ってな」

塩谷君がモチにご飯を用意するのを横目に私はお湯を沸かす。

「あ。先輩、マグカップそこの使ってください」

「分かった」

私は食器棚からマグカップを取り出すと、紅茶のティーバッグを入れる。

そしてモチが美味しそうにご飯を食べ始めると、塩谷君が冷蔵庫から牛乳を取り出した。

ポットがお湯を沸かす音を聞きながら、私は沈黙を埋めるように隣に立った塩谷君に訊ねる。


「ねぇ。ミルクティー好きなの、理由あるの?」 

「あー、それ聞きます? 似てるからですよ。苦味と甘味の加減って言うか……」

「ん? なんの話?」

私はお湯を注ぐとティーバッグを揺らし、取り出す。阿吽の呼吸で塩谷君がそのティーバッグを受け取り三角コーナーにポイッと捨てる。

「ええっと……また次、先輩が先輩が終電逃したら話します」

「また逃せってこと?」

「それはお任せしますよ。ちなみに避難所はいつでもご利用できますので」

「ふぅん」

そっけなく返しつつも、こんなに楽しくて癒しの時間が過ごせるのなら、また終電を逃すのも悪くないかもしれない、なんて思う私がいる。

私の恋は終電と共に終わりを告げた。 

暫くは恋なんて懲り懲りだが、でもいつかまた恋をするならミルクティーのような恋がいい。

塩谷君がマグカップに牛乳を注ぎ入れると、にこりと微笑んだ。

「はい、ミルクティーどうぞ」

「いただきまーす」

ちょっぴりクセになるような苦味があって、でも全てを包み込んでくれるような優しくて甘い恋。

──まるで塩谷君が入れてくれた、ミルクたっぷりのミルクティーみたいな恋をしたい。






2025.7.7 遊野煌

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