深夜1時のミルクティー

「言えない理由でもあるの?」

塩谷君が頬を掻いてから、観念したようにボソリとつぶやく。

「あの俺……不良って呼ばれる時代があって」

「えっ……?! 不良って、その……少年漫画とかに出てくるやつ?」

「……です。ただ、その、警察のお世話になるようなことはしてなくて、何度か家出したりとか田舎だったんで海で仲間と一晩過ごしたりとか……その程度ですけど……」

私は頭の中に塩谷君の不良時代を思い浮かべて見るが、どちらかと言えばインテリっぽく見える今の塩谷君からはとても想像できない。

「……すっごく意外なんだけど。でもそのことと先輩呼びの関係って?」

「えっとですね。俺、副総長やってたんですけど、総長がめっちゃ情に厚くてカッコよくて先輩呼びを……それ以来、尊敬してる人で年上だとつい先輩って読んじゃう癖が……」

「嘘でしょ?!」

思ってもみない塩谷君の発言に私はあんぐりと口を開けた。

「……ちょっと待って、まさか私のこと総長みたいに思ってるの?!」

「いやいや、総長とは思ってないですけど……見た目全然違うし、総長は喧嘩強かったし」

「ええっと……全然、情報量追いつかないんだけど、もしかして塩谷君も喧嘩も強いの?」

「あー……まぁ空手もやってたんでそれなりですけど。てか、俺の黒歴史について深掘りするの勘弁してください」

塩谷君が顔を真っ赤にして眉を下げている姿に私は口元を緩めた。

「なんか……終電を逃して良かったかも。モチにも会えたし、塩谷君の知らない一面知れたし」

「今夜聞いたことは内緒にしてもらえると」

「それはお互いにね」

「あ、確かに」


私たちは顔を見合わせて笑う。

そして空になった二つのマグカップを持つと、塩谷君が立ち上がった。


「もう一杯いれますね」