深夜1時のミルクティー

さっき塩谷君には言わなかったが、私の母も病気で亡くなっている。

病室にお見舞いに行くたびに母が私にオモチャ付きのビスケットをくれたのをよく覚えている。オモチャとビスケットに喜ぶ私を見ながら、母はいつも嬉しそうに笑っていた。

忘れられない、母と私の大切な思い出だ。

だから就職先はそのオモチャ付きビスケットを販売していた今の会社、一択だった。


(ほんと……何やってんだろ私)

私は塩谷君の目を真っ直ぐに見つめた。


「ありがとう、叱ってくれて」

「先輩?」

「前言撤回。私、仕事辞めない。私にはたくさんの人を笑顔にするっていう夢があるもんね」

塩谷君は私の言葉に安堵の表情を浮かべながら、眼鏡を鼻に押し当てた。

「……良かった。なんか俺、つい偉そうに言っちゃってすみませんでした」

ぺこりと頭を下げた塩谷君に、私は慌てて手のひらを振る。

「全然っ。むしろやる気出た。仕事も……圭太のことも」


圭太とはきっちりお別れをして、これからは仕事により邁進しよう。

恋が終わったからと言って夢を諦めようとするなんて、一瞬でもそんな考えを持った私は大馬鹿者だ。

「よし! また明日から頑張る」

私が拳を握れば、塩谷君が笑顔で相槌を打つ。

「望月先輩が少し元気になって良かったです。高森さんのこと、また何かあったら相談乗りますから」

「ありがとね。あ! そう言えば、前から聞きたかったんだけど、どうして私だけ先輩呼びなの?」

塩谷君は社内で私だけ『先輩』呼びで、他の社員には年上、年下関係なく『さん』付けで呼ぶのだ。

「塩谷君?」

私の何気ない質問に塩谷くんの目が泳ぐ。

「それ言わなきゃダメですか?」