ためらい

「冗談でこんなこと言うわけがないし、これまでもチラチラと話したのに、はぐらかしたのは美空さんのほうじゃない」
　若さゆえのまっすぐさに、いろんな意味で眩暈を感じる。
「あのね。結婚って、二人だけの問題じゃないのよ」
「わかってる。そうやって子供扱いして、美空さんこそ、俺のことは遊びだったの？」
「違うわ！違うけど⋯⋯」
「今すぐ返事をしてくれなくても構わないから」
　私の複雑な思いが、彼には伝わっていないのだろうか。
「今すぐに決断しないほうがいいのは、きっと、あなたのほうよ」
「だから⋯⋯！」
「じゃあ、こうしましょう。もし、ちゃんと考えた末に本気だったら、七夕の夜にこの海で会うの。頭を冷やすために、それまではお互い連絡も取らない。もし、やっぱり無理だと思ったり、迷いがあるなら来ないで。どちらか片方だけでも来なかったら、もう終わり。どう？」
「七夕の夜に、この海⋯⋯。わかった」