彼は高嶺のヤンキー様11(元ヤン)






ハグされるのは嫌いじゃないけど、かすかに香った後藤先生の香水が、どこか渕上ルノアがつけているものに似ていてイヤだった。





(偶然とはいえ、イヤだなぁ~)





私から身体を離すと、後藤先生は柔らかな口調で言った。





「じゃあ菅原さん、船越さんも、私はここで失礼します。」
「はい、ありがとうございました、後藤先生。」
「またね、後藤ちゃん。」
「はい、また連絡します。」





笑顔で告げると、何度か振り返りつつも、私達から離れていく女性教師。
その姿が完全に見えなくなったところで、船越師範が言った。





「愛弟子、好きな場所で暮らせばいいからね。」
「え?」
「もう、住む場所は決めてるんだろう?だったら、私は金を出すだけだ。頑張って出世払いしておくれよ?じゃあね。」
「あ、待って下さい、船越師範!」
「ん?」





さっさと立ち去ろうとする熟女に、私は思ったことを伝えた。





「なにも・・・・・聞かないのですか?」
「・・・愛弟子の人生は愛弟子が決めるもんだ。菅原凛にとって、一番いい環境を選びな。凛が何してるかなんて、言いふらしたりしない。2人だけの秘密だ!」
「船越師範・・・」



つまり、私が凛道蓮だということを黙ってて下さるということ?



「船越師範、学費と生活費のことはもちろんですが、私のこと、詮索しないで下さって、ありがとうございます・・・!」




相手の顔を見て、深々と頭を下げれば、相手は声を上げて笑う。





「幸せになれ!!」





そう言いながら、下げたままの私の頭をなでる武術の達人。
その手が頭から離れ、私が頭を上げた時には、もう船越師範の姿はどこにもなかった。