彼は高嶺のヤンキー様11(元ヤン)






「ですから後藤先生。今朝のやり取りを、渕上達に知られ、録音を恐れた渕上達が、『菅原凛に何もするな、録音されてるぞ。』と、B組を含めた全校生徒に、連絡した可能性があります。」
「・・・・・確かに・・・・私がボイスレコーダーを渡したタイミングで、いじめが止まるのはおかしいわ。それに井谷先生も―――――――」
「井谷先生がどうかしましたか?」
「あ、ちょっとね・・・・。」
「教えて下さい。私のことで、何か言われたのではないですか?」
「菅原さんのことは何も言ってなかったわ。ただ・・・普段から、私から話しかけることはあっても、井谷先生から話しかけてくることがないの。それが昨日の朝、珍しく話しかけられてね・・・。」
「どんな内容ですか?」
「それが・・・『教師をしてなかったら、後藤先生は何をしてましたか?何になってましたか?』って、聞かれて・・・」
「・・・それ遠回しに、教師をやめろと言われてますよ?」
「ええ!?」
「お静かに!井谷先生の性格を考えれば、それが妥当です。渕上さんを信じて、私が被害妄想でいじめられてると言ってるだけだと断言してくる人ですよ?」
「そこまで・・・深読みしてなかったわ・・・。」
「とりあえず、録音は中断します。」
「どうして!?もしかしたら、ぼろを出す可能性も―――――!」
「ありません。」





うら若い教師に、私は断言した。





「いじめ行為が行われていない日常会話を録音したところで、逆に『いじめがなかったという捏造』のきっかけを作るだけです。」
「あ!?」
「真実も、ウソも、どちらも証明することは、難しいことです。後藤先生から『預かった』ボイスレコーダーは、おりを見てお返しします。残念ですが、今回は、菅原凛がいじめられている証拠は、なにも取れないでしょう。」
「・・・しっかりしてるのね、菅原さんは。」





歩きながら話していた後藤先生がポツリとつぶやく。