恋慕う先輩と帰宅困難者になったなら


「この酔っ払いめ。美村のことは勢いとか成り行きとかじゃなく、大事にしたいんだよ! くそっ、俺はもう寝るからな」
「ええー! もうちょっと、もうちょっとだけでいいから、今日という奇跡の日を終わらせないでください」

 鼻呼吸ができないので、ふがふがと訴えた。

「……明日」
「明日?」
「明日というか、もう今日になるが、朝になったら車で少し遠出して朝食を食べに行こう。だから、いい加減寝ろ」

 それって私は助手席?
 隣に座っていいの?
 目が覚めても奇跡は続くの⁇

 主任は私の鼻から指を離すと、その指の背で今度は私の頬をやさしく撫でた。

 ええっ、この流れはもしかして……

 しかし、主任は大きくため息を吐いた。

「その顔‼︎  ああ、俺は本当に寝るから、美村も寝ろよ!」
「主任の寝室、チラ見だけでもさせてもらうわけには、」
「いくか! 大事にしたいっていう意味が分からないのか? 寝室には絶対に近づくな。テーブルを片付けておくから、美村はとっとと歯を磨きに行け」

 プンスカ怒って、空いたボトルやグラスをシンクに持っていく。

 家のことをする主任のこと、見ていたい……

 けれど、それも許してくれなかった。

「早く行く!」
「……はーい」

 とうとう諦めることにした。
 不貞腐れた返事をしたけれど、歯ブラシを持って洗面所に向かう私の体は軽い。
 酔っ払っているからではない(ちょっとはそれもあるけど)。
 明日もこの奇跡が続くからだった。


END