あの日の好きが、まだ胸で息をしてるから、君にもう一度伝えたい

スマホを耳に当てた瞬間、少しザザッとした雑音のあとに、聞き慣れた声が、でもいつもよりずっと小さく届いた。



『……璃菜?』



「うん、いるよ」



私はなるべくいつも通りに答えたつもりだったけど、声がちょっとだけ高くなってしまった。



『夜遅くにごめん』



「ううん、大丈夫だよ」



沈黙が落ちた。



いつもなら、すぐにふざけて笑わせてくれるのに、今日は違った。



お互いに言葉を探してるのが分かる。



電話越しの小さな息遣いまで、やけに鮮明に伝わってくる。



『……えっとさ』



先に言葉を切ったのは凪くんだった。



『あのさ、覚えてる?卒業式のとき、俺……』



体育館裏での、あの日の景色が頭に蘇る。



あのときの声、あのときの顔。



全部、ちゃんと覚えてる。



「覚えてるよ」



凪くんが言い終わる前に私は言葉を放った。



「体育館裏で、ボコられるのかと思ったやつでしょ?」



緊張を解すために、私は少し冗談を言った。



『だからそれ、ずっと言うなって…』



凪くんは少し焦った口調だった。



私は思わず笑ってしまった。



『……俺さ、ずっと……ずっと諦めようと思ってたんだ』



耳にあたるスマホが少し熱い。



声が震えているのが、分かった。



『でもさ、無理だった。会えば会うほど、話せば話すほど……お前のこと、もっと好きになるんだ』



聞きながら、泣きそうになるのを必死でこらえた。



『だから、もう一回だけ言わせて。俺、お前が好きだ』



もう一度、ちゃんと言ってくれた。



あの日より、少しだけ大人びた声で。



でも、どこか不器用なままで。



私はすぐに返事ができなかった。



頭の中ではたくさんの言葉が浮かんで、全部言おうとしたけど、喉の奥で引っかかってしまった。



『今すぐ返事は、いらない。前と同じでいい。でも、伝えたかったんだ。俺の恋は、まだ終わってないって』



凪くんが言った。



私の今の気持ちはーー



“ちゃんと考えたい。ちゃんと、自分の気持ちを…凪くんを好きだって、言い切れる自分でいたいから”



スマホの向こうで、小さく息を吐く音が聞こえた。



「……ごめん、すぐには返事できないや」



やっと絞り出したのは、それだけだった。



『知ってる。だから、ゆっくりでいい』



また沈黙。



だけど、不思議と怖くなかった。



沈黙の向こうにいる凪くんの表情が、なんとなく想像できたから。



「……待っててくれる?」



私が小さく聞くと



『当たり前だろ』



ちょっとだけ笑った声が返ってきて、胸の奥がじんわり熱くなった。



「じゃあ……おやすみ」



『おやすみ』



電話が切れて、耳に残るのは凪くんの最後の声と、私の心臓の音。



ちゃんと伝えなきゃ。



怖くても、ちゃんと。



いつかもう一度、凪くんの声を聞くときはーー



迷わずに「好き」って言える私でいたい。