あの日の好きが、まだ胸で息をしてるから、君にもう一度伝えたい

『もしもし?』



スマホから聞こえる璃菜の声は、あの日の桜の下と何も変わってなかった。



けど、俺の手はびっくりするくらい震えていた。



「夜遅くにごめん」



『ううん、大丈夫だよ。仕事終わりだったし、ちょうど暇してた』



電話越しの璃菜は、少しだけくぐもった声で笑った。



何度も遊んだあとも、卒業してからも、こんなにちゃんと璃菜の声だけを聞くのは久しぶりだった。



頭の中がぐちゃぐちゃで、言いたいことが喉につかえて出てこない。



「……えっとさ」


『うん』



璃菜が、スマホの向こうで小さく相槌(あいづち)を打つ。



「あのさ、覚えてる?卒業式のとき、俺……」



『覚えてるよ』



俺が言い切る前に、璃菜が小さく笑った。



『体育館裏で、ボコられるのかと思ったやつでしょ?』



「だからそれ、ずっと言うなって…」



『ふふっ』



笑い声が耳に優しく届いて、少しだけ胸が苦しくなった。



「……俺さ」



『うん』



「ずっと……ずっと諦めようと思ってたんだ」



自分の声が少しだけ震える。



「でもさ、無理だった。会えば会うほど、話せば話すほど……お前のこと、もっと好きになるんだ」



言葉が途切れそうになるたびに、りなが『うん』って小さく相槌を打ってくれる。



「最初はさ、見た目が天使みたいとか思ってて……でも、それだけじゃなかったんだよな。璃菜はちゃんと、自分の考えを言うし、間違ってることは叱ってくれるし……。そーゆーとこが、俺は本当に好きで……」



言いながら、泣きそうになるのを必死でこらえた。



「……だから、もう一回だけ言わせて。俺、お前が好きだ」



電話越しの璃菜は黙っていた。



沈黙が怖くて、でも切られるのがもっと怖かった。



「……今すぐ返事は、いらない。前と同じでいい。でも、伝えたかったんだ。俺の恋は、まだ終わってないって」



電話の向こうで、小さく笑う息が聞こえた。



『…びっくりした』



璃菜が、ぽつりと呟(つぶや)いた。



『凪くんってちゃんと言うんだね、そういうの』



「……まあな」



『ごめん、すぐには返事できないや』



「知ってる。だから、ゆっくりでいい」



沈黙が、前より少しだけ優しかった。