「その男はこの写真の男じゃありませんか?」と俺は以前、中瀬 灯理や鈴原 則都にも見せた監視カメラの画像を見せると、片岡 伸一は
「さぁ。実際姿を見たことはないので……」と言って身を縮ませる。
「他に怪しい点は?その“鈴”が付く男の何か情報はありませんか?」ちょっと身を乗り出して聞くと
「気になって……盗み聞きしたことがあるんですけれど……ワインがどうのこうの…とか。言ってました」

ワイン。それだけじゃ分からない。
もっと決め手があるものが、他にないのだろうか。

何せ、陽菜紀のケータイはあの現場に残ってない。犯人が持ち去ったに違いないが。

鈴原 則都は陽菜紀のアルバイト先の同僚だと言っていて、それに関しても裏が取れた。確かに有名ホテルでウェイターとして働いていた事実がある。そこで親しくなって、今でも友人同士だと言っていた。

確か、事件発生直前か直後か……未だ判明していないが、鈴原 則都は、中瀬 灯理と同じ時間帯にマンションロビーに居た。

あれは偶然なのだろうか―――

結局、陽菜紀の相手が誰なのかそれ以上情報は出てこず、また片岡 伸一が陽菜紀を殺したと言う確証もなく、一旦は帰ってもらうことになった。

「最後にひとつ。あなたと厚木 優子の間に子供が出来たと言うことは?ご存じですか」という質問を投げかけると
「……はい」と、これにも片岡は素直に頷いた。
「片岡 陽菜紀と離婚するつもりはなかったと仰いましたよね。では厚木にできた子の責任は?どう取られるんですか」と聞くと、片岡は青白い顔をのろのろ上げて

「堕ろさせる―――……つもりでした」

俺は盛大にため息をついた。ろくでもねぇヤツだな、こいつも。不倫した挙句子供作って、しかも予定外の出来事だったから、簡単に堕ろさせる、なんて。

「厚木は納得したのですか」
「説得は……しました……術費に加えて、多額の金を―――……」
「だったらそのもくろみは失敗ですね。厚木は産むつもりですよ。あなたの子を」
テーブルに両手を付け、片岡の顔を覗きこもうとすると片岡の顔は歪んだ。

「……そんな…」

事件後、片岡 陽菜紀のSNSをチェックした。何か証拠になるものが映ってないか。だがどれも大した事柄や物が映っていたわけではなく。
ただ、陽菜紀と伸一はセットで度々登場していた。仲良し夫婦と言う感じに見て取れたが、とんだ仮面夫婦だったわけだ。

「まんまと騙されたわけだ、あなたも。カネを持っていかれ、さらに子供を産めばそれをネタに幾らか引っ張れると思ったんじゃありませんか、厚木も」

中瀬 灯理の話では、厚木 優子はただ単に愛しい男の子供を欲しがっている、と言う風に聞こえたが、これは俺からのちょっとした意地悪だ。無責任で身勝手なこの男のことが、同じ男として許せなかった。
俺の推論に片岡 伸一は益々顔を青白くさせた。
色男が台無しだな。