「あのタヌキディレクター、事実確認とか言ってますけれど裏も撮らず絶対ロケ班を向かわせていたに違いないですよ」
再び車を運転中、久保田がしかめっ面で言った。
「まぁなぁ。あれは腹に一物も二物も抱えてる、腹黒いヤツだろうな。まぁそのおかげか、厚木 優子のSNSが炎上してる、って言うのは間違いないようだ」
俺は久保田が開いてくれたタブレットのSNSを眺めて眉をしかめた。厚木 優子の最後の投稿は二日前に、友人と行ったフレンチレストランでの写真だった。その下に数えきれない程のコメントがぶら下がっている。厚木 優子のSNSはそれなりに人気があったようで、だがその反動も凄い。
“何が友達とフレンチよ。不倫してたくせに”
“彼氏とデートって今まで言ってたけど、あれは全部奥さん居る人だったの?”
“親友て言ってた子の旦那さんと不倫なんてサイテー”
“てか言う程美人じゃなくね?”
“匂わせ女子、乙。必死感パねぇ(笑)”
“騙された 騙された 騙された”
少し見たが、これらのコメントに全部目を通していたら精神的に参ってしまいそうだ。そこには底知れない悪意と野次馬根性が渦巻いている。
「タヌキは報道してないって言ったよな。こいつら何で厚木と伸一が不倫してたこと知ったんだろう」俺が聞くと
「今の世の中どこでどう見られてるか分からないですからね。誰かがSNSを投稿したんでしょう。厚木の元にテレビ局の取材が来た、しかも取材内容は彼女の不倫について、だ。
かっこうのネタだったんじゃないですか。世の中案外暇人が多いんスよ。みんなスキャンダルに飢えてるって言うのかな」
「怖い時代になったもんだな。悪いことするとすぐに情報が出回って拡散していく」
「曽田さん、じじくさいですよ」久保田はちょっと笑ったが、すぐに表情を引き締めた。「この情報はあっという間に広がったみたいですね。さっき井東さんから聞きましたが、片岡 伸一の会社の株は暴落してる、とか」
「ま、身から出た錆って言うヤツだ?誰も同情するヤツいねえな」
本当、怖い世の中だ。



