テレビ局は大手のニュースを扱っているものではなく、深夜のバラエティ番組などを流す、小さなものだった。
「これですよ」テレビ局のディレクターがそっけない茶色い封筒を取り出し、ぞんざいに言ってテーブルに滑らせた。封筒はA4サイズが入る大判のもので、宛名も差出人も全部タイプライターで打ってあった。差出人は確かに“中瀬 灯理”と書いてある。
切手の消印も中瀬 灯理の実家がある喜多町になっている。
「久保田、鑑識に回せ」俺は手袋をはめた手でその封筒を慎重につまみ上げると「了解です」と言って久保田は封筒の中から一枚の紙と何枚かの写真を取り出した。
「あなた方は厚木 優子と片岡 伸一が不倫していたことを知った、と厚木に言ったらしいですね」
俺がディレクターに言うと、たっぷりとでっぱった腹をさすりながらディレクターは居心地が悪そうに口を尖らせる。その姿はさながらタヌキのようだ。
「事実確認をしようと思って人をやっただけですよ。今回の騒動にうちは関係ありません」
「報道する予定は?」俺がさらに聞くと
「はっきりとした事実がないので、まだ……」とくぐもった返事が返ってきた。
「お宅らが事実確認できようもんなら、俺らは必要ない、食いっぱぐれだな。事実を知るのはまず最初に警察だ」俺が皮肉ると
「これが本当なら私たちは大手を出し抜けると思ったんで……」とディレクターは言い訳をもごもごと口の中で唱えた。そのおかげで厚木 優子は流産しかける、と言う大惨事になったがな。だが、それは黙っておこう。このタヌキがまた厚木を追いかけ回すかもしれないからな。
「この“スクープ”の見返りは?金でも要求されたか」と再び俺が聞くと
「いえ、金などの要求はなく、ただ『使ってほしい』と」
「そのようですね。金品を要求する旨は書かれていません」と久保田が手紙を眺めながら目を細める。
「とりあえずこれは押収する」と言って身を翻すと
「その……中瀬 灯理って何者ですか」とタヌキが聞いてきた。
「厚木に聞いたんじゃないのか」嫌味ったらしく言ってやると
「聞いても教えてくれなかったらしいです」とタヌキは悔しそうに言った。
「そっか。じゃぁ“謎の美女”ってことにしときな」



