予想もしてなかった。突然の抱擁に、私は曽田刑事さんの胸の中で目を開いて固まった。曽田刑事さんのシャツから洗濯用洗剤の香りに混じってほんの少し重みのあるタバコの匂いが香ってきた。
彼の体は私が想像した通り、しっかりとした筋肉が骨格を覆っていた。力強い腕だったけれど、強引さは感じられない。
曽田刑事さんに言われた通り自販機でカップのお茶を買っていた久保田刑事さんも、びっくりしたように目を丸めている。
「中瀬さん、あなたは間違っていない。例え、厚木 優子の赤ん坊が流産しちまっても、それはあんたのせいじゃない。あの時期は良くあることだ。
あなたは正義感と、誰もが持ちえる汚い感情とに素直に向き合える人だ。誰でも二面性はある。それは仕方のないことだ。だけれどそれを受け入れ、それに対処しようと必死だ。
そんな人に、人は殺せない。
今回の件はあなたのせいじゃない」
刑事さんは諭すように言って、私の頭を引き寄せるとさらに強く胸の奥へと掻き抱かれた。
刑事さんの胸はとても温かくて、力強い程の鼓動を間近に感じた。



