そこでもう一度、優ちゃんが倒れたいきさつを軽く説明してると刑事さんは習慣なのだろうか私の一言一言をメモしていた。
「なるほど」と言い、メモを書き終えるのを見届けると、私は曽田刑事さんにそっと両手を差し伸べた。
「刑事さん―――……
私を逮捕してください」
突如の私の発言に曽田刑事さんと久保田刑事さんが二人揃って目を開く。
「ちょっと待ってください……あなたは何をしたと言うのですか」最初に口を開いたのは曽田刑事さんだった。
「私は―――優ちゃんに酷いことを言いました。簡単に償えるとは思えません。優ちゃんと優ちゃんのお腹の子は助かったと言え……一歩間違えれば、或はもう少し搬送が遅れていたら
私は少なくとも赤ちゃんを殺すところでした。私がやったことは
殺人未遂です」
「中瀬さん、それは……」と久保田刑事さんがちょっと困ったように眉を下げ
「それは違います」ときっぱりと言い、曽田刑事さんが後を引き継いだ。
私はうつろな目だけを上げると曽田刑事さんの真剣な視線が空中でぶつかった。
「厚木 優子さんがもし流産しても、あなたが直接彼女に暴力を振るったわけではありません。これは店にいた従業員も証言していますし、流産の直接的な原因ではありません。そもそも彼女が流産しても法的措置はとれません」
「でも……私、優ちゃんにとても酷いことを……
私……取り返しの着かないことを言ってしまったのです。今回はたまたま助かっただけで、私……怖いんです。自分の中にとんでもない悪魔が居ることを、知りました」
優ちゃんに言われた。私は『悪魔』なのだ、と。その通りだ。
「このままじゃ、いつか私本当に人を殺めてしまうのではないかと、怖いんです」
一言一言喋るうちに自分のした優ちゃんへの仕打ちを思い出し、それだけで涙が出てくる。確かに優ちゃんに手を挙げたわけではない。けれどあのまま口論が激しくなっていたら、もしかしたら………
「お願いします!」
半ば叫ぶように言って曽田刑事さんの腕を掴んで縋ると、彼は私の二の腕を掴み
「落ち着いてください、中瀬さん。あなたは興奮してるんですよ。
おい、久保田。もう一杯茶買ってこい」と久保田刑事さんに指示すると、予告もなく
ふわり、とまるで包み込むような優しい動作で私を
抱きしめてきた曽田刑事さん。



