優ちゃんが近くの大学病院に搬送されてから、約一時間程経ったときだった。
「処置室」とプレートが下がった部屋の引き戸が開き、中からブルーの術衣を着た医師か看護師さんかどちらか分からなかったが、マスクを外しながら出てきて
「厚木 優子さんのご家族の方ですか?」と聞かれ、私は慌てて首を横に振ると「いいえ。でも……救急車を呼んだのは私です。優……厚木さんとは友人同士で…」と説明する際、少しだけ声がくぐもるのが分かった。
そもそも優ちゃんは私の友達なのだろうか―――それすらも、もう分からない。
「厚木さんはもう大丈夫ですよ。母子とも無事です」
と一言聞いたとき、私は腰から力が抜ける気がして、よろけた。
………良かった―――……
ほっと安堵の息が漏れる。
しかし、優ちゃんは様子見と言うことで三日程入院することになった。その説明を受けているとき
「中瀬さん」
聞いた覚えのある声に名前を呼ばれて振り返ると、
曽田刑事さんと彼の相棒の久保田刑事さんんが歩いてきて、私は目を開いた。
「厚木 優子さんが倒れた、と連絡がありまして」
連絡?一体誰が……?と、ふと疑問に思ったけれど、そんなこと、すぐにどうでもいいと思った。
優ちゃんが流産しそうになった事柄は特に事件性はない、と刑事さんは言っていたが、それでも軽く事情を聞かれることになり、私たちは一階ロビーにある休憩スペースへ移動した。その場は長椅子が置いてあり、いくつかジュースやコーヒーが飲める自販機が設置されていた。会計や診察の順番待ちの患者さんやそのご家族が思い思い過ごしている。
温かい緑茶を刑事さんは御馳走してくれて、私はまだ震える手でおずおずとそれを受け取った。



