勝ち負け―――って
何………?

何が勝ちで、何が負けなの?
と思ったけれど優ちゃんの放った言葉に衝撃を受けすぎて言葉にならない。

「私は陽菜紀の欲しかったものをようやく手に入れたの。ようやく陽菜紀に勝ったと思ったわ。伸一さんの愛も、彼の子供も、私が手に入れたのよ。
昔から大嫌いだったの、あの女が。今でも嫌いよ。だけど世間は“片岡 陽菜紀”って煩い!死んでも尚憎い!」

優ちゃんの口から飛び出る悪態は、まるで異国の言葉を聞いているようで理解ができなかった。まるで悪魔の言葉のようだ。何て醜悪で身勝手な。
開いた口が塞がらない、とはこのことを言うのだろう。

私はしばしの間呆然と優ちゃんの独演を聞いていたけれど、私だって聖人じゃない。ようは、今風に言うとキレた、と言うところだ。

「じゃぁ…」と低く自分の喉から出た言葉に優ちゃんの言葉が切れた。


「じゃぁ優ちゃんが死ねば良かったじゃない。そしたら優ちゃんは陽菜紀より有名になれたかもよ」


言ってはいけない言葉だと思った。けれど言った後になってなかったことになんてできない。
優ちゃんの顔はみるみるうちに真っ赤になって、席をガタつかせて立ち上がった。握った拳を震えさせている。
「ようやく、あんたの本性が現れたってわけね。私はあんたのことも昔から嫌いだった。ただの陽菜紀の腰巾着なくせに。正義感振りかざして、良い子ちゃんぶって」
「正義感を振りかざしてなんかないわ。当然のことを言ったまでよ」売り言葉に買い言葉。私は謝ることもできずに負けじと言い返すと、優ちゃんは
「あんた、いつになくよく喋るじゃない。やっぱり陽菜紀が居ないから?あの女が居たらあの女に全部持ってかれるものね。でも
それがあんたの本心ってわけね。この

悪魔」

優ちゃんは低く唸り、敵意を剥き出した険悪な顔で私を睨み下ろし、だけど次の瞬間

「……いたっ!」

優ちゃんはお腹を押さえてその場で背を丸めた。

「え……?」
突然のことで、わけが分からず私が目をまばたいていると

「痛い…!おなかが……」優ちゃんはお腹を押さえたまま、その場で蹲った。
演技とは思えなかった。優ちゃんの顔はこちらから見ても分かる程真っ青だ。額に脂汗が浮かんでいる。
「優ちゃん!」私は立ち上がり優ちゃんに駆け寄り、優ちゃんの肩に手を置こうとしたけれど、優ちゃんはその手を乱暴に払った。

「……触らないで!」一言そう叫んで私は慌てて手を引込めたが

「……痛い……
痛い!」

優ちゃんは呻き続け、優ちゃんの身体に何が起こっているのか分からず戸惑ったが、緊急事態だと言うことだけは理解できた。私は慌てて立ち上がり自分のスマホをバッグから取り出し
119番通報をした。