「何、しらばっくれてるのよ。あんた知ってたんでしょ」
と優ちゃんが目を吊り上げて私を睨んできて低く言い、私は慌てて首を横に振った。

「知らない……これを撮ったの、私じゃない」と言うと
「嘘よ!あんたの名前でテレビ局にタレこみがあったって記者に聞いたわ!ご丁寧に写真も送ったらしいわね」
と優ちゃんはテーブルの上で拳を握った。

私の名前で―――……?知らない。私がやったんじゃない。だってご主人の浮気相手が優ちゃんだったなんて、知らなかった。その事実がたった今発覚して驚いているのに。

「陽菜紀の事件が収まりつつあったのに、これを知った記者たちが私の家に押しかけてきたの!テレビではまだニュースになってないけれど、私のSNSは大炎上よ!おかげで私は顏を隠さなきゃならない羽目になったの」

優ちゃんの怒鳴り声が響いて、店内に居たお客の数人が何事かこちらを興味深そうに見てくる。その視線に気づかないふりをして、私はテーブルにばらまかれた写真をもう一度見渡した。写真は隠し撮りだろう、二人ともカメラ目線ではなかったが、それは言い逃れが出来ないほどの親密さを物語っていた。

一体、誰がこんな写真を―――……

「記者のことはお気の毒だけど、私はやってない」
はっきりと言い切ると、
「お気の毒ですって?そんなこと思ってないくせに!あんただって伸一さんを好きだったんでしょう!?陽菜紀が羨ましいって思ってたんでしょ!」
周りの目もあるからか、優ちゃんは今度は充分声を低めて囁き、けれど声音に私を責めるものが含まれていた。

私が陽菜紀のご主人を…?
流石に気分が悪くなって「そんなことない」とはっきり言い切った。

「中学のとき私の好きだった人は陽菜紀と付き合ったわ。私がその子を好きだと知ってたのに、だから今度は私が陽菜紀から奪ってやったの。自業自得じゃない?」
「何なのその屁理屈。陽菜紀は結婚してたのよ。昔とは状況や立場が違う。優ちゃんのしたことは間違ってる」
優ちゃんの険悪な眼をまっすぐに見返して言い切ると


「何が正しいのか間違ってるのか、なんて関係ない。
伸一さんが選んだのはこの私よ。私なの!

だって私のお腹の中には伸一さんとの赤ちゃんがいるの。七週目よ」


優ちゃんはどこか誇らしそうに言って勝気に笑った。
赤ちゃん―――………それもご主人との間の……

私は目を開いて優ちゃんの険悪に光る眼とテーブルで隠れている彼女の腹部とを交互に見やった。
ご主人の浮気相手がまさか友人の優ちゃんだったと言うことに驚いたのに、その上赤ん坊まで……
目の前が真っ暗になった気がした。眩暈を起こしそうだ。

呆然自失としている私に優ちゃんはさらに叩き付けるように言った。

「陽菜紀は死んでみんなの記憶に永遠に残るかもしれない。けれど“勝った”のは私よ」