■□ 死 角 □■


「あの……でも、こんなこと私に話していいのですか?」
心配になって聞くと

「今は非番中です。俺は警察手帳も持って無いし、あなたとの会話も録音してない。ましてやあなたから状況を利用してあれこれ聞き出そうと言う寸法ではありません。あくまでただの世間話です。
と言っても、まぁ俺、胡散臭く見えるんで説得力ないでしょうけど」
ええ、とても胡散臭く見えます。とは言えなかったけれど、でも刑事さんが握っている情報を私に流しても私に何か出来るとは思わないし、ましてや情報を利用する、なんて考えもってのほかだ。

「亭主の浮気は―――…片岡 陽菜紀も、昔からの行いが我が身に返ってきたと思えば納得のいくことかもしれませんが」
「我が身に?」
「あなたの同級生たちに聞きましたよ。あなた方のボーイフレンドたちを片岡 陽菜紀が奪ったとか、彼女はカップルクラッシャーだ、と。あなたもそのうちの一人だと窺いましたが」

「私の……?」言って思わず口をあんぐりと開いた。次いで、慌てて手を横に振る。

「それは誤解です。私はボーイフレンドを横取りされたことはありません。確かに…小学生のとき『いいな』と思ってた子がある日突然陽菜紀と付き合いましたが、もう二十年ぐらい前の話ですよ。もうその子の顔すら覚えていません。その子のことで陽菜紀を恨んだりもしませんでした」
言い訳するつもりはないし、私の言ったことは全て事実だ。

「まぁ確かにあなたが犯人だった場合、今更、って感じですよね」

刑事さんは私の話を聞きながらどこか遠くへやった視線でぼんやりと眺めている。
確かに、刑事さんの言った『今更』と言う言葉はもっともだ。けれど、私は『今更』になっても陽菜紀の存在の大きさに臆している。

山川さんと結局うまくいかなかったのも私が過剰に陽菜紀を意識しているからだ。