■□ 死 角 □■


「恋愛、と言えば片岡 陽菜紀―――……さんの亭主、外に女作ってたらしいじゃないですか」

突如としてその話題をひっぱり出されて私は口に入れていた出汁巻き卵を危うく喉に詰まらせそうになった。慌ててビールでそれを流し込み
「事件の話はしないのでは?私から事件のこと聞きだしたいのなら無駄ですよ。陽菜紀の家庭のこと、あまりよく知りませんので」と言うと刑事さんは残念そうにするかと思いきや、やけにあっさりと
「ただの世間話って言うことで。亭主が不倫してたって聞いて、あなた動揺しませんでしたね。知っていたのですか?」と逆に聞かれ
「……噂で……同級生の子たちがホテルに女の人と入って行くところを目撃したとか……」

私は何とか答えた。

「片岡さんからそのことで相談されていたことは?」とまたも間髪入れずに聞かれて、私はゆるゆると首を横に振った。「ところで、刑事さんは何故ご主人が浮気していることを知ったのですか」と今度は私から聞くと
「クレジットカードの明細で、片岡 陽菜紀が持っていない装飾品やブランド小物の店で買い物していることが確認できましてね、亭主の最後の貢物が真珠のネックレスです。日付は片岡 陽菜紀が亡くなった次の日で、金額にして50万ちょい。」

刑事さんは指を五本立てた。

陽菜紀が亡くなった次の日に50万円の買い物を―――……?

びっくりして目をまばたいていると、

「さらに亭主は出張と言っていたが、会社に問い合わせてみると出張ではなくただの有休みたいだったです。彼の秘書が教えてくれました。恐らくこの近辺でその浮気相手と会って居た、と推測されます」

え……ちょ、ちょっと待って…!

陽菜紀のご主人は、彼女が亡くなる日、私が呼ばれた日出張ではなく近くで誰かと会っていて、しかもその次の日そのお泊り相手に真珠のネックレスをプレゼントしたってこと?

「あの……お相手は…?」思わず前のめりになって声を低めると

「まだ判明していません」
と刑事さんはあっさり。「でも時間の問題でしょう。今警察の総力をあげて捜査中です。片岡さんは恐らく痴情のもつれに巻き込まれて殺されたのか、と我々は推測しています」

痴情のもつれ―――……

浮気を知られたご主人が陽菜紀を―――…?
或はご主人の相手が陽菜紀を邪魔に思って―――……?