曽田刑事さんは手慣れた手つきで(勝手に)生ビールを二杯と、メニューも見ず適当な料理を注文して、出されたおしぼりで手を拭うと顔をがしがしと拭く。
「ふー、さっぱりした。今日、顔洗ってなかったもんで」と曽田刑事さんは笑ってあっさり言ったけれど、それ笑うところじゃないから。
「あの……それより良いんですか?……私……容疑者の一人なんでしょう?」
とおずおずと聞くと
「俺、オンとオフを使い分けるデキる男なんで。あと、容疑者ではなくあなたは現段階参考人の一人と言う程度ですよ」とさらりと言われた。ツッコみどころはいっぱいあるけど。
「そうなんですか……あの…捜査は進んでいるのですか?何か進展はありましたか?」と聞くと、刑事さんは歯をにっと見せて「それは秘密です」と笑った。
いつものまるで射るような視線を今は仕舞い込み、どこか人懐っこい笑顔が少年っぽい。こんな風に笑うこともできるのね。
でも……何なの、この人。じゃぁどうゆうつもりで私を誘ったのよ。と苛立ちを押さえていると、生中のジョッキと出汁巻き卵がテーブルに運ばれてきた。
「ここの出汁巻きと焼き鳥はうまいんですよ。他はイマイチだけど」とこそっと私に耳打ちしてきて、けれど運んできたくれた白い割烹着姿の初老の女性は「他はイマイチって、聞こえてるんだよ」と曽田刑事さんの頭を軽くはたく。
「いって!相変わらず馬鹿力だな」と曽田刑事さんは喚く。そのやりとりがまるで母親と、ヤンチャな小学生の子供のように思えて何だか笑えてきた。
そのやりとりに緊張がほぐれて、喉の奥でくすくす笑っていると、割烹着のおばさんが物珍しそうに私をしげしげ。
「テツ、あんたいつの間に女の子連れ歩くようになったんだね。しかもこんな若くて可愛い子と」
テツ……?
「ああ、俺の名前。哲多って言うからテツって呼ばれてるんです」
「テツは昔っから悪ガキでそのまま大人になっちまったもんだから、女の子に対する接し方がなってないんだよ。これだから前のかみさんに逃げられちまうんだろ」
割烹着のおばさんが呆れたように吐息を吐き
「前の……?結婚、されてたのですか」と私が聞くと
「十年以上前に離婚して今は独身です。今は彼女募集中なんです」と冗談とも本気ともつかない口調で曽田刑事さんは苦笑い。
意外だ。失礼かもしれないけれど、結婚してたなんて。
「あ、今意外って顔しましたね。まぁ俺なんか粗暴だしいい加減だし、見てくれも良くないし、だらしないし」と曽田刑事さんは自嘲じみて笑う。
粗暴でいい加減、だらしない、と言う部分では否定できないと思う。それに何も答えないでいると、割烹着のおばさんが私の方を見て豪快に笑い出し「素直な子だねぇ」と言い立ち去って行った。
「俺のこたぁどうでもいいって。それより今日はどうしたんですか?まるで人生が終わりそうな程落ち込んで見えましたが」
と運ばれたジョッキに口をつけビールを半分ほど豪快に一気に煽ると曽田刑事さんに切り出され、
人生が終わりそう―――…?傍から見たらそう見えるのか、と思ったら急に自分が恥ずかしくなって私もビールに口をつけた。



