■□ 死 角 □■


曽田刑事さんはいつものスーツ姿から一転、タートルネックのニットにパーカ、下はジーンズと言うラフな格好だった。けれどスーツ姿とあまり変わらずそのスタイルは洗練されている、とは思えなかった。部屋着に毛が生えた感じだ。

「どうしたんですか?まさか私のこと張ってたんですか?また聞き込みですか」
と、低く言って睨むと、曽田刑事さんは慌てて手を横に振った。

「いやー…今日は俺、非番なんで。ちょっとパチンコでも行こうかなって思ってたら中瀬さんを見つけたんで。
中瀬さん、今日は雰囲気違って最初見間違いかと思いましたよ」

曽田刑事さんはいつもの鋭い視線をどこかへ仕舞いこみ、人懐っこく笑う。私は自分の恰好を改めて見て、急に恥ずかしくなった。陽菜紀の死からまだ日が経ってない。なのに浮かれてお洒落なんてして……これじゃ疑われても仕方ない。

「あの…それじゃ、私あっちなので」と駅の方向を指さすと

「なーんか、落ち込んでますね。カレシにフられましたか?」とストレートにズケズケと聞かれて……仮にも、山川さんとお付き合いしてフられたとしても、やはりその言い方はデリカシーに欠ける。

「別に……彼氏じゃありません。と言うか失礼じゃありません?その言い方」とちょっと睨むと
「まぁまぁそう怖い顔せずに。どうです?一杯飲んでいきませんか?この先にいい店知ってるんですよ。愚痴なら聞きますよ」
と曽田刑事さんはビールのグラスを傾ける真似。

「は―――……?」

突如の誘いに意味が分からず、「予定はなさそうだし、いいでしょう」と勝手に決め付けて言い、やや強引な仕草で腕を引かれた。だけど力強いのに、ちっとも強引さを感じない。不思議な手つきだった。それとも刑事さんだから、この職業の人はみんなこうなのか。力の加減を分かっているって言うのかな……

ちょっと!と抵抗する間もなく、曽田刑事さんの言う“いい店”とやらに到着した。

そこは大衆居酒屋とも小料理屋ともちょっと種類が違った、個人経営ぽい居酒屋さんで、店の前に立つと焼き鳥を焼く香りが漂ってきた。その香りに胃が刺激される。考えたら昼食にサンドイッチをかじった程度で、今は夜も19時だ。本来なら山川さんとお茶をした後、これまた彼が予約してくれたイタリアンのお店に行く予定だったけれど、結局キャンセルすることになっちゃったし。

でもまぁ、私はお洒落なイタリアンのお店よりこうゆうお店の方が落ち着くって言うか……なんて考えてる傍で
曽田刑事さんは私がついてくること前提で勝手に店の暖簾をくぐると、「おやじ、二人ね~」と言い私を手招き。

何だか変ないきさつになったけれど、このお店は安全そうだし、相手は刑事さんだ。そもそも変なことはしてこないだろう。私は流されるまま仕方なく曽田刑事さんの後に続いた。