ホテルのラウンジから一人とぼとぼと帰る。その足取りは酷く重かった。
自ら、断ってしまった―――…

「え―――……?」

山川さんはびっくりしたように固まっていたけれど、次の瞬間慌てて頭を下げ

「すみませ……僕……気が利かなくて……会話も下手だし」と俯く。山川さんは最初のイメージよりずっと頭と勘が良いみたいだ。「ごめんなさい」の意味をいち早く察してくれた。
「いえ、違うんです。山川さんのお話はとても楽しいです。問題は山川さんではなく私の方で―――…」

慌てて言ったが、でもその“問題”部分をうまく説明できなかった。それを何と勘違いしたのか、

「考えたら……こんな美人さんと僕とじゃ釣り合わないですよね……今日は少しですが、楽しいひとときを過ごせました…ありがとうございました…」
と丁寧に頭を下げられ、一方的に断った私よりも恐縮している山川さんを見て自分がとても悪い女に思えた。

「悪いのは私なんです……山川さんには私なんかよりもっと素敵な人、見つかります」
そう、私なんかよりもっと自分に素直で、優しくて―――

私はいくら着飾ろうとしてもいくら頑張っても陽菜紀にはなれない。そのコンプレックスで凝り固まった卑屈な女だ。

山川さんとはホテルで別れた。彼は最後まで「ありがとうございました」と頭を下げていた。それに会釈を返し、そして山川さんと別々の方向へ歩き出したのだ。

はぁ……吾知れずため息が漏れる。何か月もメールでやりとりしてせっかく「いいかも」と思えて、実際会ってみたら本当にいい人で、いいお付き合いができそうだったのに……

何やってるんだろう、私。

何だか何もかも嫌になってスマホを開くと、マッチングアプリを開いた。アカウント名を変えようと思ったけれどそれも嫌で結局“退会”を選んだ。

“退会しますか?”と言う表示が出て『はい』と『いいえ』の選択肢が表示されたときだった。


「中瀬さん!」


聞き覚えのある声に呼び止められ、ふいにスマホから視線を上げると
見覚えのあるボサボサ髪と無精ひげの大男がまるで子供のようにブンブンと無邪気に手を振っていて

「え…?曽田刑事―――さん…?」

私は目を開いた。