山川さんと待ち合わせしたお店はそこから少し離れたホテルのティールームだった。そのティールームは豪華なアフタヌーンティーが有名で数々のSNSや雑誌、テレビで紹介されていた。
当然すぐに行っても席は満席で、予め山川さんが予約をとってくれていた。山川さんの名前を出すと難なくテーブルに案内され、丸いテーブルの椅子に居心地悪そうに身を縮めた青年が座っていて、私は頭を下げた。青年は着慣れないのか、いかにも新調しました、と言う浮いたスーツ姿だった。痩せていて色白でちょっと不健康そうではある。

「はじめまして。山川さんですか?」
確認するために聞くと

「は、はじめまして!そちらは“ひなき”さんですか」

と聞かれて、はっとなった。

マッチングアプリに登録するアカウント名は何も本名でなくともいい。だから山川さんも実際“山川さん”かどうか分からない。マッチングアプリに登録する際、登録名を何にするか散々悩んだ。別に本名を出しても良かったけれど、やはり私もどこか危機感と言うのがあったのか……結局一番最初に思い浮かんだ顔を登録した。そうして「ひなき」と名乗ったのだ。

「………はい、間違い…ないです」と何とか答えると、山川さんは恐縮したように頭を何度も下げ
「今日はお時間作っていただきましてありがとうございます」と控えめに挨拶。
「こちらこそ」と何とか言って席に着くと、山川さんは落ち着かないようにそわそわ。目だけを上げて

「……いや……想像以上に……す……すっごい美人さんが来て、僕びっくりしてます…」

と言い、慌てて用意されていたお冷を一気飲みする山川さん。
美人―――……?なんて言われたのはじめてだ。ちょっとびっくりして目をまばたくと

「あ……メニュー……あ、あります…どうぞ」と山川さんはたどたどしく言ってメニュー表を渡してきて、それを受け取りながら私も恐縮した。

きっと女性が少ない環境でお仕事されてるのね。だから私なんて地味でいかにも取り柄がなさそうな女も「きれい」と勘違いしてしまうんだわ。

喋っていると、山川さんはメールのままの人柄で、見た目は冴えないしちょっと不器用な所はあるけれど、真面目で優しい。