ギクリ、として目を開いて固まり慌てて背後を振り返るけれど、けれど当然陽菜紀の姿なんてなくて。もう一度そろりと顔を戻すと、やはり鏡の中に陽菜紀が映っていた。
陽菜紀は私のすぐ背後に突っ立っていて、無表情に鏡の中私を見ていた。
どうして……!
暑くなんてないのに、握った手のひらにじっとりと汗が浮かんだ。そのくせ背中は氷が伝うような冷たさが走る。
「お客様…?」私の様子を怪訝に思ったのか店員さんが不思議そうに覗き込んできて、でも鏡に映った陽菜紀の姿に気づかないのだろうか……いいえ、きっとこの店員さんに陽菜紀は見えていない。私だけ―――……
目を閉じれば見えなくなる筈なのに、私は目を閉じることもできずただ金縛りにあったように立ちすくむだけ。店員さんに何かを答えることもできず、そのまま微動だにできずにいると
すっ
鏡の中の陽菜紀が無表情を張りつけたまま、指をさした。一瞬、私が―――指さされているのかと思ったけれど、その指先は私とほんの少しずれていて、その先に深い茶色のストーンがゴールドのチェーンにいくつかついたネックレスだった。
「これ……」私は振り返り鏡に映しだされていた背後の棚を指さされたそれを手にすると
「それ、昨日入ったばかりなんですよ~。パール系だと可愛くなりますが、そっちの方はシックでお姉さんの雰囲気によく合ってますよ~」と店員さんはさっきの怪訝そうな表情を仕舞いこみ、にこにこ対応してくれた。「合わせられます?」と聞かれ無言で頷き、再び鏡に向かい合うと、陽菜紀の姿は消えていた。
「やっぱり!こっちの方がステキですね~」店員さんの明るい声を聞きながら「じゃぁこれにします」と機械的に答えていた。
親友が勧めてくれたので。
とは言えなかった。



