“私も帰りました。私も楽しみにしています”
短くメールを返信し、はぁ…とため息が漏れた。山川さんには事情を説明していない。
連日報道されている殺人事件の被害者が、まさか私の親友だった、と思う筈もない。
思わないでほしい―――山川さんには、知られたくない。何も知らないから、今はちょっとそのことがありがたい。その反面、陽菜紀のこと……鈴原さんともっと喋りたい。陽菜紀の存在を忘れないで欲しい…って願う。
私って本当に身勝手―――……自己嫌悪に陥りつつ、色々あったからその日はあっという間に眠りについた。
次の日も、私は何事もなかったかのように仕事に励んだ。同僚も何も聞いてこない。知っていたとしても『知人に不幸があった』ぐらいの程度だろう。
「解約される場合は、利用を一旦休止される方法と、完全に解約されるいわゆる権利放棄と言う形が選択できますが…」
と先方と電話でやりとりして、電話を切った後速やかに書類作成、と言うことを繰り返していると、いっとき事件のことを忘れられた。そうやって息つく間もなくやりとりを繰り返して
とうとう山川さんとデートの日になった。
一瞬、デートを断ろうかと思った。陽菜紀の死を迎えてまだ間もないと言うのに、自分だけ浮かれているのもどうかと思ったのだ。けれど断ったところで山川さんに“どうして?”と突っ込まれるだろうし、下手な言い訳をして気のない素振りも見せたくなかった。
今度こそ結婚を前提のお付き合いができるかもしれないのだ。
やはり断ることはできない。



