確かに妙、と言えば妙だ。何故、陽菜紀は幼稚園のときに描いた絵を今になって私に寄越してきたのだろう。しかも私に直接渡してくれればいいものを、わざわざ母親伝手に。

アパートに帰りついて改めてその絵をまじまじと見つめたけれど、結局そこで何かを見つけることはできなかった。
十分ぐらいその絵を眺めて、結局諦めて丸める際に、ふわりとオレンジやレモンと言った柑橘系の香りが漂ってきた。
陽菜紀が愛用していた香水かな、と一瞬思ったけれど違う気がする。陽菜紀が纏う香水はいつも、もっとローズとか女性っぽい香りだった。

何となく気になって陽菜紀のSNSを開く。どうやら本人が亡くなってもアカウントは凍結されていないようで、そのまま残っている。最後のアップは私が事件当夜に見た19:16と言う時刻。ほとんど空のワインを手に頬を膨らませている陽菜紀。それまで陽菜紀は生きていた、と言うことになる。

そこから幾分か遡って、一か月前のある投稿で指を止めた。それは香水瓶の写真がアップされていて、その上に

“香水変えたよ~♪ホワイトローズの香り♪使った感じはちょっと甘めの女子っぽい香り!気に入った~”と感想もある。その下にはハッシュタグでブランド名とその冬に新作発表された香水名も記載されていた。
やはりローズだ。じゃぁこの柑橘系の香りは何だろう。ご主人が愛用している香水だろうか。

小さな疑問だったが、考えても分からず私はやっぱり諦めてベッドに身を沈めた。

近くに転がったスマホがメールを報せるランプが点灯していて、さっき夢中になって陽菜紀のSNSを見ていたからメールが来たことに気づかなかった。のろのろとメールの画面を開くと

“お疲れ様です。もう帰りましたか?僕は帰宅途中です。明後日の土曜日、楽しみにしています”

と、一文。山川さんだった。

そうだった……明後日の日曜日、はじめて山川さんと会う……いわゆるデートって言うので、陽菜紀の訃報を知るまでその日を心待ちにしていたのに、一気に色んなことがありすぎて忘れかけていた。