そんな事実を知らなかった私は寝耳に水と言った感じで、ただ間抜けにぽかんと口を開くしかなかった。
その間に「はい!日替わりランチね!」と威勢の良いおばちゃんがテーブルに今日の日替わりランチ、ヒラメの煮つけと、から揚げ、サラダと味噌汁それとご飯が乗ったお盆を私たちの前にそれぞれ置いて行き
「うまそうですね」と鈴原さんの昔話が一瞬途切れた。
「はい……あの……それで、陽菜紀が仲良くしていたのは鈴原さんだけだったんですか」と話題を戻すと、鈴原さんは味噌汁のお椀の蓋を外しながら
「まぁ俺らタメだったし、何て言うか話のテンポとか合ったんで」
と言い少し昔を懐かしむように遠くを見やった。だけどその視線をすぐに戻して私に真正面から向き直ると
「それに俺、灯理さんの名前を聞く度に、どんな人なのかなーって気になってました。
ほら、女の人の友情って脆いイメージがあるじゃないですか。でも陽菜紀は灯理さんのことを本当に好きだったみたいで、それは楽しそうにあなたの話をしてたんです。
俺は親の都合で各地を転々としてましたので、転校する先々友達が出来てもすぐに切れちまうんで、そうやって深い絆…?って言うのかな、そうゆうものに憧れてたんです」
と至極真剣に言われて、何だか顔が熱くなった。自分を恥じたのだ。私と陽菜紀の関係は確かに幼馴染以外の何でもなかったけれど、でも陽菜紀はもしかしてそれ以上に思っていてくれたのか、と思うと自分が高校を卒業してからちょっと陽菜紀に冷たかったかも…と反省をした。
しかし反省をしたところでもう遅い。失ってはじめて気づくなんて、本当に私はバカ。私が失ったものの大きさは自分で計っていたより何て偉大だったのだろう。
「憧れなんて……そんな大層なものじゃないです…」私は身を縮ませた。鈴原さんの憧れのイメージがきっと大きく崩れたに違いない。「すみません……何かイメージを崩すようなことをしてしまって」と謝ると
「え?何で謝るんですか。灯理さんが悪いことなんて何一つありませんよ。勝手にイメージしてたのは俺ですし。それにイメージが崩れたとは思ってません。
陽菜紀が言ってた通りの人だなって」
陽菜紀は何て―――……
と、言う言葉は出せなかった。鈴原さんは割りばしを割っていて湯気が立つヒラメの煮つけに箸を伸ばしている。
結局、陽菜紀が私のことを鈴原さんに何と言っていたのか聞けなかった。



