私たちが落ち着いたのは会場から歩いて五分程の所にある定食屋さんだった。ランチ時なのか鈴原さん世代のサラリーマンの人たちが多い。壁に貼りつけてある手書きのメニューを眺めて日替わりランチを二人分注文した。
食事が来る間、鈴原さんが唐突に切り出した。
「あの、突然すみません。名前なんておっしゃるんですか?今まで知らなかったんですけど、何て呼べばいいのかな、とか思っちゃったり。今更ですけど」
と鈴原さんは恥ずかしそうに笑った。
「あ、すみません。私名乗ってなかったですよね。
中瀬です。中瀬 灯理と申します」と改めて名を名乗ると
「なかせ あかり―――さん……?」と鈴原さんが切れ長の目を開き、ぱちぱちと目をまばたく。
「あの……私の名前が何か…?」怪訝に思って顎を引くと
「いや、あの“噂”の灯理さんかって思いまして」
「噂の?陽菜紀から何か聞いてるんですか?」
「いや……ほら、俺の同僚だった人たち…つまり陽菜紀からしても同僚だったけど、その人たち誰も式に来てなかったでしょう」
と聞かれて、私は小さく頷いた。それが私の名前とどんな関係性があるのだろう、とちょっと疑問に思った。
「陽菜紀ね……元々お嬢様気質な上、ちょっと奔放なところがあったでしょう?思ってることズバズバ言っちゃったり」
それは昔から変わらなかった。でも何故か許されてきた。周りが特に嫌な顔をしたことがない。二言目には『陽菜紀ちゃんだから』と言う何故か良く分からない理由でみんな受け入れていた。でも私もその一人。『陽菜紀は陽菜紀だから―――』ようはそれを一つの個性だとみんな認めていたのだ。
「陽菜紀、あの性格でそれであんまり周りに溶け込めなくて。
ぶっちゃけて言うと嫌われてました」
え―――………?
陽菜紀が―――嫌われて?
まるで想像できない。陽菜紀の中心には常に人が居て、すぐに誰でも仲良くなれると思ってたのに。前述した通り、陽菜紀のちょっと奔放で我儘な性格は私の知っている学生時代、誰もが普通のように受け入れていたから。
「まぁ当の本人が嫌われててもまるで気にしてなかったようですから……まぁそれに加えて仕事中にスタッフがミスしたりすると、すぐに『アカリならこうする』とか『アカリならあのときこうしてた』とか、灯理さんの名前をすぐに出すんですよ。
確かに陽菜紀は覚えも早いし、要領が良いですけど、でも顔も知らない灯理さんと比べられたスタッフたちは良い気がしないって言うか……」
そう―――だったの……?



