お坊さんの読経を聞きながら私はじっと四角の額にはめられた陽菜紀の遺影を見つめていた。
聞き慣れない言葉が一定の…しかし独特のテンポでお坊さんの口から唱えられる。それがどういった宗派なのか良く分からなかったけれど。
読経に混じって通路を挟んだ向こう側では親族の人たちのすすり泣きが聞こえてきた。その先頭に陽菜紀のご主人が俯いて座っていた。
―――陽菜紀の旦那、浮気してたらしいよ。
あれは、誰が言い出したことなのだろう。
読経のさなか、私はそんなことを考えていた。単に陽菜紀を陥れたいのなら悪質な噂だし、もし本当のことだったら……
本当のこと―――だったら……?
お経には、苦を生んでいた煩悩の炎を消し去り、一切の苦から解放された境地が目標であることを謳っている。
陽菜紀は、このお経を聞いて苦しみから解放されるのだろうか。もしご主人が浮気をしていて、そのことに悩んでいたのなら……“相談したいこと”の内容がそのことだったら、このお経によって解放される―――と思いたい。
読経は予定通り1時間で終わり、その後出棺前に最後のお別れと言うことで棺桶に入った陽菜紀にみなが語りかける。
「陽菜紀、陽菜紀っ!!」おばちゃんの泣き叫ぶ声が聞こえてきた。未だに陽菜紀の死を受け入れたくないようだ。当然だろう。それを支えるおじちゃんと、陽菜紀のご主人。
棺桶の中には魂を無くしてもなお、不動の美しさを纏った陽菜紀が横たわっていた。
いいえ、これで陽菜紀は永遠の美しさと若さを手に入れたのだ。
華の盛り、と言う言葉があるように一番陽菜紀が輝いているこの瞬間を永遠にみんなの記憶に残るように。
私のすぐ隣に居た鈴原さんが鼻をすすりながら、昨日と同じやはり白い薔薇を棺桶に入れていた。私もそれにならい、沙耶ちゃんは赤い薔薇を手にしていたけれど棺桶に近づこうとしなかった。
ただ俯いて、薔薇を握ったまま地面の一点を見つめている。
「沙耶ちゃん……?陽菜紀に最後のお別れしよ?」
そう言って促すと
「灯理ちゃんは強いね」と沙耶ちゃんがぽつりと言った。



