「あ。やだぁ、もうこんな時間。私旦那の実家に子供預けてるんだけど、終了時間よりだいぶ遅れてる。煩いのよね、義母が」と麻美ちゃんが腕時計を気にして、
「ごめん最後まで付き合えないけど」と言って洗面所を出て行った。
後に残された好未ちゃんと私。好未ちゃんは昔から誰にでも親しく喋りかける子で、どっちかと言うと優ちゃんや沙耶ちゃんみたいなタイプだが、きさくに話しかけてくれて私も楽しかった。確か白線の遊びを教えてくれたのも好未ちゃんだった。当時は夢中になって二人で白線を歩いた。
「麻美さ、ああは言ってるけど、家事と育児で疲れ切ってる所あるみたいだよ」と好未ちゃんが切り出した。「さっきも言ってたけどさ、旦那さんのお母さんが厳しい人なんだって。旦那は母親の言いなりで頼りにならないらしいし」
「そうなの…?旦那さんは何をしている人?」
「さぁ、はっきりとは分からない。営業とか言ってたような。同い年だし、まだ給料も少ないらしいからね」
「そうなんだ。みんな色々大変だね。好未ちゃんは?」結婚は?彼氏は?とは敢えて言葉に出来なかった。
聞かれたくないことかもしれないし。さっきお通夜のことをSNSにあげた優ちゃんが不謹慎だと思ったが、自分だって同じぐらい無神経だったと思う。でも何となく流れで聞いてしまって、今更撤回などできない。
でも好未ちゃんは別段気を悪くした様ではなく
「彼氏はいるけど、結婚するかどうかは分かんないなー、もう付き合って五年経つのにそれらしい話一向に出ないし」とあっさり言った。そのすぐ後に「灯理ちゃんは?」
と、当然聞かれるわけで、私は慌てて両手を横に振った。
「私は結婚はおろか、彼氏すらいないよ」
「へぇ意外な感じ。じゃぁ沙耶香みたいなバリキャリ系目指してるの?」
「まさか。私なんて沙耶ちゃんみたいになれないよ。大した資格も持ってないし」
「そうなの?灯理ちゃん昔から頭良かったし、いい大学行ったってうちのママ……母親がそう言ってたよ?」
「いや!全然、ホントもうそんなんじゃないし。大学名だけ有名で私の通ってた学部は大したことないし」
「そっかー、でもまだまだ学歴社会だからね。ほら、私なんて短大出て就職先に苦労したクチだから。だからやっぱ灯理ちゃんが羨ましいよ」
好未ちゃんは本当にそう思ってくれているみたいで、ふっと緊張を緩めた笑顔で言ってくれた。
別に、大学は知名度で選んだわけではない。私の学力で、かつそこそこ名が通っていたから選んだだけで。特別な理由などなかった。
「昔っからさ」
好未ちゃんは唐突に切り返し、私は次の言葉に耳を傾けた。
「灯理ちゃんは一本筋が通った子だったよね。
陽菜紀に間違ったことを教えるのも全部灯理ちゃんの役目だった。あの子に『それ違うよ』って言えるの、灯理ちゃんだけだった。
陽菜紀はそんな灯理ちゃんにべったりで、ちょっと異常なぐらい依存しているようにも思えた。
だから灯理ちゃんは陽菜紀から離れるため、陽菜紀の学力では行けない大学を選んだと思ってた」



