はじめて会ったのは私たちが幼稚園に入学した日。元々家がご近所さんと言うのもあって、そもそもうちの親と陽菜紀の親が親しかったのもある。私と陽菜紀は特に疑問に思うこともなくごく自然に仲良くなった。
小さい頃から高校を卒業するまで何をやるにも一緒だった。どこに行くにも一緒だった。
友人同士、と言うよりまるで姉妹のように育った。

何が二人の軌道を狂わせたのか。

それは明確に分かっていた。私が大学に進学したときからだ。

一時間の読経が終わって、故人を懐かしむかのように、或は通り一遍の挨拶のように、陽菜紀の親族たちや弔問客が挨拶をしたりしている。
私は弔問客の相手に忙しいご主人に未だきちんと挨拶ができていない。通路を挟んで左右に並べられた椅子の群れの中、後ろの方に座ってタイミングを見計らっているときだった。

「灯理ちゃん、良く来てくれたわね」

と、喪の色の和服を纏った陽菜紀のお母さんに声を掛けられた。しばらく会っていなかった。もしかして私が高校を卒業してから会ってなかったかもしれない。もともと陽菜紀と似て華やかな美人だったが、今は見る影もないぐらいやつれて老け込んでいた。それはここ数年で徐々に浸透していったものではなく、数日の間に一気に襲ってきたと言う感じに思えた。

「おばちゃん。ご無沙汰しています」慌てて頭を下げると

「いいのよ、いいのよ。こうやって陽菜紀に会いにきてくれただけで嬉しいわ。灯理ちゃん、良かったら陽菜紀にお花を手向けてやってくれない?ほら、あの子赤い薔薇が好きだったでしょう」
そう言われて色とりどりの献花用の花が乗った盆を差し出されて、私は迷ったのち

白い薔薇を手にした。

そう、陽菜紀が好きだった薔薇の色は白だ。

何故おばちゃんが勘違いしているのか、或は本当に思い込んでいるのか分からないが、私は―――私の知ってる陽菜紀に、彼女の好きだった花を贈りたかった。
おばちゃんは挨拶に忙しいのか、それとも花の色なんて気にしてないのか、私が薔薇を取ると満足そうに頷き、次の弔問客へと足を向けていた。

「あなたもどうぞ。―――見ない顔ね。―――……え?そう?アルバイトで……生前は陽菜紀がお世話になりました」
とおばちゃんの声が聞こえてきて、何となくそちらに目を向けると献花用のお盆から一茎、男の人が花を取っている横顔が見えた。その手元を見やると白い薔薇が握られていた。


鈴原さん―――……