「なぁ、中瀬 灯理が出していた財布、どこのブランドかお前解るか?」
久保田の方が中瀬 灯理に歳が近いだろうし、その辺の感覚は俺と違う。助言を求めると
「ああ、あれ。Horse starってブランドで、あのスワロフスキーみたいな石がワンポイントで今若い女の子たちの間で人気なんです。スワロフスキーって分かりますか?」
と久保田はスラスラと答えてくれたが、俺をバカにした物言い。
「スワロフスキーぐらい知っとるわ。あのキラキラしたクリスタルみたいなヤツだろ?」
「クリスタル?うーん、ちょっと違う気がしますが……あ、財布だと……50,000円~って感じですね」
デキる年若い相棒は早速“Horse star”について調べてくれたようだ。差し出されたタブレット端末を覗きこみ、確かに中瀬 灯理が持っていたのは、同じものではなかったが類似品で55,000円とある。
俺なら財布に50,000!?と目を剥くところだが、年頃の女性だとそう言うのを意識するのだろう。だが妙な引っかかりはある……。バッグや靴、服には金を掛けてないのに何故財布だけがそんなに高級なのか。
一点豪華主義、と言えばそれまでだが、その一点に敢えて財布を選ぶかな?と言う小さな引っかかり。
「貰い物かもしれませんね。オトコから」と久保田が意地悪く笑う。
まぁ居てもおかしくないな。ああゆうタイプの女は“ある種”の人間を惹きつけてやまない。
その“種”についてはこれは分からない。完全な俺の勘だ。
だが事前の調べで、中瀬 灯理に男の影は無かった。当然恋人も居ないようで、その生活は会社と自宅であるアパートを往復するだけと言う淡々としていたものだった。
目立たずひっそりと、与えられた枠を超えないように―――
俺は彼女が必死にそう思って生きていると、何故か感じた。
そう
彼女から滲み出ていたのはその
『必死感』
だ。



